ふいに現れては胸を焦がし、惑わし、全部壊して。
優しい切なさだけを残して去っていく、悪魔のようなひと。
貴方に恋をするのは、未来に嫉妬することと同じ意味でした。
[ 2hours limit ]
ヒステリックに投げ捨てた銀の筒が部屋の片隅で
黒い煙を上げている。彼と俺を結び合わせてくれた武器は
同時に、俺と彼の間に埋められない、引き裂かれるような溝を
作っていく。今、彼の腕の中にいる瞬間でさえ。
「・・ねぇランボ。十年バズーカって壊れっぱなしには
出来ないの?」
平らな胸の上で寝返りを打つと、癖っ毛の二つ年上の男が
至極残念そうに答えた。
「・・無理でしょうね。時空の関係で、二時間後には自動修復されて
しまうそうですよ」
どこまでも中途半端な魔法だ。いつでも登りつめて果ててから
伸ばした手の間をすり抜けていく俺たちの関係のように。
ねぇランボ、五分じゃキスもできないよ。
十年後の俺もさっきの俺みたいに、君の腕で泣いたりするのかな?
――そしたら君は「ツナさん」の言葉の中に、どんな意味を込めるの?
十年後、それとも今?
君が欲しいのは――過去と未来の俺、どっちなの?
「・・すいません、若きボンゴレ。時間が合えばまた・・」
「またって、いつ?」
彼の素肌に跨って髪を引いたら、小粒のマスカットの瞳がすこしだけ
細くなった。こんなに可愛いのなら、もっと困らせてやりたい。
「今度はいつ、来てくれるの?」
無理な注文だってことは分かってる。気まぐれに壊れる十年バズーカが
いつその銃口を彼に向けるのかさえ分からない。そのとき俺が彼のそばにいる
保証は、何一つない。
不確かな未来からやってくる、二時間だけ確かな俺の恋人。
「それは――」
言いかけたランボの唇を奪った。正確にいうなら約束など
聞きたくは無かった。彼は嘘をつかないけれど、本当のことをいうのは
許されないのだ。未来と過去を行き来するものの不文律。
けして――明日の約束を決めてはならない。
「・・ボンゴレ、痛いです」
真っ黒な髪の毛を引いたら、覗いた角が鈍色に光った。
こんなに役に立たない男に惚れたことを、一番悲しんだのは
リボーンだった。
ねぇランボ、今度また君に会えるまで、君は何度・・十年後の俺を抱くの?
少し伸びた背丈を抱きしめながら――俺を、思い出したりするのかな?
「・・俺のこと、忘れちゃうじゃない」
「忘れませんよ」
「・・だったらいつ、思い出すの?」
「毎日、毎晩ですよ」
「うそつき」
俺を抱いた手で、ボンゴレに愛と忠誠のキスをするような男を
――こころから、身体の底から愛してる、愛しているのに君は。
俺を手に入れるだけじゃ足らないんだね。
ねぇランボ、二時間じゃ愛を語ることも出来ないよ。
ただ、肌を重ねるだけで。流してしまえば、身体の中に何も
残らないんだ。君は何のために俺の中に全部出すの?
その汗も熱も呼ぶ声も、十年後には俺だけのものに
なるのかな
――そうしたら
この小さな嫉妬を笑い飛ばしてくれる?
愛してるのは貴方だけと、囁いて俺を惑わせて。
そしたら少しだけ伸びた髪を引いて、今度は未来に留めてあげる。
過去の俺には渡さないって、泣いてすがるから。
だからどちらの俺も溶けそうなほど甘やかして。
二時間で君にばらばらに溶かされてしまう俺は
もうどこか、壊れてしまっているんだよ。
二時間だけでいいから、過去も未来も忘れて
今此処にいる俺のことだけ好きと言って。
今此処にいる俺のことだけ――考えてよ。
(ランツナが一番好きとお話してくださったa様へ捧げます・・!)