『 究極の選択 』








「・・何してるの?」

 不機嫌な声が執務室に響いたのは、午後三時の休息を
会議を終えたばかりのディーノさんと一緒に過ごそうとした週末のある日だった。
 刺すような言葉に腕組をしたまま部屋にずかずかと入ってくる
声の持ち主は、いつも何のアポイントメントも無しで扉を開ける
想定外のお客のひとりだった。

「・・な、何してって・・」
 ディーノさんちょっと、と声を上げた俺の口を彼の大きな手が覆った。
「うーん、ちょっとストレッチな」
 ストレッチなんかじゃない、と抗議しようとする
俺の脚をディーノさんのもう片方の腕がしっかりと広げている。
 素っ裸でやるストレッチなんて、古今東西愛の営み以外
俺は見たことも聞いたこともない。
 会議が終わってすぐ、俺は着ていたスーツを剥ぎ取られディーノさんに
押し倒された。書類とにらめっこしていると大概別の意味で欲求不満に
なるから、俺はディーノいがさんとべたべたと過ごすことは嫌じゃない。
ディーノさんは激しいけど終わった後とても優しい・・その優しさが好きで
彼の衝動を許してしまう部分もある。

 ふーん、と雲雀さんは俺とディーノさんを交互に見た。
ベッドでシャツひとつ見につけず、羽交い絞めにされている俺。
スーツひとつ脱がずに俺の素肌を撫でて笑顔を浮かべる彼。

「・・午後三時からは僕との予定だったはずなんだけど」

 そんな予定立ててないです!・・俺は叫ぼうとして、もごもごと
ディーノさんの手の中に抗議した。へーそうなんだ、と彼はのん気に笑って

「ダブルブッキングなんてやるじゃん、ツナ」
――火に油注がないでください・・!
 俺のすがるような視線も空しく、雲雀さんの笑顔にはあきらかに
青筋が立っていた。ドアを開けたらいきなり挿入直前だったというだけで
たぶん問答無用でトンファーを振り下ろされていただろう。
 殺される、と俺が死期を悟った瞬間だった。

「じゃあ、試してみる?綱吉」

 優しい口調に顎を持ち上げられて、俺は思わず漆黒の瞳を見返した。

「そうだな、どっちかよかった方ともう一発するってことで」

 ディーノさんがおかしなことを言いながら俺の両脚を広げた。
 もう既に、十分なほど彼を受け入れる準備の出来た俺の後ろの入り口に
固くて熱い先端を押し当てながら。
「・・ちょっとディーノさん、駄目で・・すっ」
 抵抗しながら俺はのけぞって、至極嬉しそうに彼の一部を飲み込んだ。
この、開発され尽くした身体が恨めしい。

「・・んっ・・あ、・・いいっ」
「――俺もいいぜ、ツナ」

 溶けそうになりながら腰を動かすと、その様子を見ていた彼が
息を吐くばかりの俺の唇に――噛み付くようなキスをした。

「そのお口で僕を、綺麗にしなよ」

 舌が離れた途端熱い塊を押し込まれて俺は、思わず吐きそうに
なりながらそれをしっかりと舐めた。俺に淫らな舌の使い方を教えて
くれたのは彼だった。

「・・そうそう、随分上手になったね」

 俺が一生懸命彼をほうばると、彼は猫みたいに黒目を細めて
俺の髪を撫でてくれる。いつもどんなに強請っても優しくなんて
してくれないから、俺は彼をたくさん舌の上で愛してしまうのだ。

 腰を激しく動かし始めた、笑顔だけなら天使のような憧れの人と
舌と喉に先端を押し付け始めた、声色だけなら悪魔みたいな怖い人の
熱くて苦い愛を受け入れながら俺は早々にある一つの結論に達した。

 どっちが一番かなんて絶対に――選べない。

 どちらも俺を壊れるまで、愛してくれるんだ。