『 片道切符 』
「へーっ小さい風呂、棺おけみたいだな」
「・・縁起でもないこと、言わないでもらえます?」
「動かないでください、若きボンゴレ・・シャンプーが
眼に入ってしまいます」
日本式の風呂が初めてなのか、楽しそうに笑うロメオ
に俺はため息をかえした。
その俺の髪を、真後ろに座る十年後のランボが丁寧に洗って
いる。
どちらとも見分けのつかない顔立ちの二人と、風呂に入るのは
妙な気分だった。
たまたまランボと入浴していたときに、10年後の彼が誤爆した
らしいのだ。そしてその衝撃で歪んだ時空が今だ成仏していない
彼――ロメオを実体化させたらしい。
男三人で風呂なんてそんなむさ苦しいの俺は嫌だと言ったのに
「まぁいいじゃねーか減るもんじゃないし」
(もともと死んでるから洗いながす罪もない)
という軽口の男と
「せっかくですから、お背中流させてください」
(五分しかいられないから、役に立ちたいらしい)
と言った軟派な男に挟まれて、俺はおとなしく髪を洗われている。
・・はずだったんだけど。
「ちょっとランボ、どこ触って」
「すいませんボンゴレ、久々のあなたが可愛くて・・」
「んっ・・あっ、だめだって・・ば・・っ!」
「あいつがよくって俺が駄目ってわけねーだろ」
たった五分で天国までいかされてしまって、その後の
俺は蒸気だけ残ったバスタブでひとり沈んでいた。
腰がじんじん、顎はがくがく・・どっちに突っ込まれて
どっちの舐めさせられたかも分からない。
――なんでこんなところで・・張り合おうとするんだよ。
俺はバスタブの端で、二人への恨み節を並べ、拒絶しきれ
なかった自分の押しに対する弱さを呪った。
覚えているのは苦い苦い味と、甘酸っぱいこの気持ち。
――二人とも、俺を何だと思って・・。
不満をぶつけるように湯を払うと広くなった浴室にぴしゃん、と
水滴が飛び散った。
愛されてそのまま逃げられたら、切なくて余計に忘れられない。
あの男達がそこまで考えているなんて思えない。
だって、思ってしまったら。
――まるで、俺が好きになったみたいじゃないか。
今度あったらそっぽ向いて、もう二度と会わないと
言って困らせてやろうと俺は思った。
片方はおろおろと慌てて、片方はむしろ開き直るかも
しれないけれど・・たぶん俺は負ける。だって二人とも――
片や、甘えん坊で我儘。俺を困らせてばかりで、何一つ聞き入れはしない男。
片や、泣き虫で怖がり屋。俺を護るといいながら敵が現れると真っ先にやられる男。
そのどちらも同じ瞳で俺に「愛してる」と囁き、
そのどちらも時々俺に「また会えますか」と尋ねる。
俺はその度、こう答えたくなるんだ。
「――そんなの、会えるに決まってるよ」
だって。
たった五分じゃ、天国には行けても――
一緒に帰って、来れないよね?