『 首輪 』













 山本武は、目を疑った。応接室の前を通りかかったのは
偶然だったのに、その中から聞こえた叫び声には聞き覚えが
あった。思わずドアノブに手をかけたのは、その声が朝いちばんに
挨拶をしたクラスメイトの泣き声に、よく似ていたからだった。
――聞き間違いであって欲しい。
 祈りながらドアを開けた瞬間、彼は絶句した。自分が想像した中で
1番目を背けたかった光景が目の前にあった。

「・・ああ綱吉、お客さんみたいだよ」

 男の腕の中に小さな体が折りたたまれるように
収まっている。クラスメイトの素肌に刻まれた・・噛み付いたような
紅いうっ血痕に彼は、思わず視線を床に戻した。
 皮のソファーに座る風紀委員長の、膝の上で喘ぐ少年の
頸には紅くちいさな棘のついた輪が、その手足には銀の枷が
短い鎖を伴ってしっかりと肌に繋がれていた。そしてその
眼には――

「ツナ・・」

 彼が名を呼ぶとその名を持つ少年の体がぴくりと動いた。
彼自身にも聞き覚えのある声だったのかも、しれない。

「彼も、楽しませてあげようか?」

 僕は親切だからね、といいながら男が少年の頬に舌を添わせると
華奢な体がのけぞって、下肢の間の彼自身があらわになった。
 透明な液の滴る先端を見たとたん、入り口で立ち尽くしていた
山本の下腹部がしっかりと脈打った。男のそれを見て、欲情したのは
初めてだった。
 そしてそのとき彼は初めて、ツナが後ろから抱かれたまま雲雀の一物を
飲み込んでいることを知った。根元までしっかりと男の肉棒を埋め込まれた
体が小刻みに震え、何度かツナも達したのか腹の辺りを汚していた。
――さっきの悲鳴はたぶん・・
 己の想像に吐き気がして、山本は目を瞑った。雲雀ではなくツナを犯す
自分自身の姿がそこにあり、そんな自分が心底嫌になった。
どうしようもないくらい、勃起している自分が・・
握りつぶしてやりたいくらいに、憎い。
――そして1番認めたくないのは、この秘め事に加担しようと
歩みを進めている自分の後姿だった。

 助けなければ、この悪魔みたいな男からツナを救い出さなければと
思うのに。脳裏で浮かぶのは、ツナを汚す想像ばかり。
 立ち上がった小さな乳首、唾液の零れる薄いくちびる
鎖骨のしっかり浮き出た華奢な肩、癖っ毛の張り付いたうなじ
細くくびれたなんの無駄もない腰、引き締まったへそ
あらわになった白い大腿、まだ成長の途中のような弱弱しい性器
・・なにもかも、作り物のように綺麗で嘘のように儚い。
その体を突き刺しながら男は、悪魔のような取引を持ちかけた。

「・・黙っておいてあげるよ。PTAと、野球部の顧問には」

 雲雀の言葉に、目の前で膝をついた山本は呆然と・・ソファーの
上に君臨する風紀委員長を見上げた。切れ長の眼に、怪しくも
強い光が宿り――悪魔はささやく、狂い咲く花を抱いて。

「ほら、綱吉・・君が普段口にするものとはちょっと
違うかもしれないけど・・」
 大事に食べるんだよ、と山本のズボンのファスナーを下ろしながら
雲雀は言った。育ちすぎた彼の欲の塊を引っ張り出して。
「そうそう・・歯は、立てないで上げてね」
 丁寧に命じる彼の口調はこの上もなく楽しそうだった。
程なく山本の性器を舐めだしたツナの腰も揺れている。
二人はまだ、繋がったままだった。

「ふふっ、たまにはこういうのもいいね・・」

 突然現れた客人を、雲雀は抱いたツナの舌でもてなした。
口を塞がないでおいたのは、この部屋に紛れ込んだうさぎを
同じ食卓に招待するためでもあった。
 ツナの両目にしっかりと巻かれた包帯を見ながら山本は
彼に視界が遮られていることに、死ぬほど感謝した。

 今にも性器を喉まで押し込もうとしている自分自身を
彼にだけは知られたくなかった。