たった五分なんて
貴方は言うけれど
俺にとっては永遠の。
[ 5 minutes lover ]
真っ白な煙の中から現れた幼少時の面影を
全く残さないその男は、俺の姿を見つけると
悠然と微笑んだ。
「誤爆も悪くありませんね・・貴方に会えるのなら」
変わりに十年後に飛ばされた五歳の彼は今頃
泣き叫んでいるのではないか。それとも。
「10年後の貴方も、俺を大事にしてくれますよ」
そう言って俺の顎にそっと手をかけた巻き髪の
男は・・ゆっくりと跪いて、マスカットみたいな瞳を
細めて笑った。
冷たい唇が重なった時・・何だか甘くて酸っぱいものが
口中に広がった。
「さっきまで、貴方に葡萄を食べさせてもらってたんですよ」
五分の間に彼はいくつ嘘を並べるのだろう。それとも
すべては本当なのか。この300秒のフィルムに流れる
霧の中の逢瀬も。宝石のように自分を愛撫する男の影も。
もう一度彼が微笑んだ瞬間、沸きあがった煙が急速に
彼を包んだ。さようならも、また今度も言えない。
「10年後のどこかで」
未来の約束を魔法のように残して、幻影は消える。
俺の中に残るのはやけにリアルな――葡萄の味と
胸を深く抉り取るナイフのような彼の言葉。
――流れ込んできたのは、愛でなく。