答えを教えてあげるから試させてよ 






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 いつの間にか、イタリアのマフィアの頂点に立っていた
男に舐めるような視線で見上げられたのは、仕事でたまたま
ボンゴレ本部に寄ったある日の午後だった。例の幼馴染の
近況でも、と思いて覗いた執務室に俺を引き込んだのは
この部屋の本当の意味での主だった。
「遊びにきたわけじゃねぇぞ、コラ」
 溶けるような笑みに上がった心拍数を悟られないように
言うと、男は俺を無理やりソファーに座らせて、頸を真横に
倒した。逆らうことは許さない、という沈黙の重圧――
些細な動作にさえ凍りつくような威厳が溢れていて
場慣れしていた(と思っていた)はずの俺も背中に
戦慄を感じた。
「・・これは命令だよ、コロネロ」
 そういうなり俺の足元にしゃがみこんだ例の男の
教え子は――なんの躊躇いもなくズボンのファスナーを
するすると下ろすと、器用に息子だけを取り出した。
寸分の無駄もない動きだった。
「・・お、おい」
 何してんだ、コラと言うより早く、そいつは俺を
ぺろりと舐めた。まるで味見をするような舌の動きだった。
 男は舌を口の中に戻して、俺を見上げた。マフィアにとっては
伝説的な存在――ある意味ヒーローの地位に位置する男に
跪かれて誘うように見つめられるのは・・男として悪い気は
しない。それが、奴の常套手段であり、狙いだと知っていても。
・・堕ちてしまう方が、いっそ楽な気がした。



「・・勝手にしろ、コラ」
 勝手に勢いづいた自分が恨めしくて言うと、下肢の間に
埋めた顔を戻してボンゴレの頭領は言った。
「・・知りたかったんじゃないの?」
「何をだ?」
「俺と、リボーンの関係」
 教えてあげてもいいよ、と華奢な指先は俺を突付いた。
おいリボーン、こういう拷問を仕込んだのはお前か?
「答えを教えてあげるから試させてよ」
 まず君を、と薄茶色の眼は言った。返答は一言だけだった。
「・・好きにしろ」
 仕組まれた罠なら身を投げて内側から鍵を外すまで
囚われるのが快楽なら――いっそ繋がれたままでも構わない。
そう思わせるだけの魔性だった。女にはけして醸し出せないような。




 奴が俺の一物を執拗に味わう間、俺は栗色の髪を梳きながら例の
幼馴染の横顔ばかり思い出していた。
 遊びにきたわけじゃない。これは命令。知りたかったこと。
家庭教師と教え子の、関係。答えを教えてあげるから――
 耳障りな言葉の鎖が一連に繋がった瞬間、奴の口の中で俺が
悲鳴を上げた。舌の動きだけでこんなに早くいったのは初めて
だった。
 俺の出したものを飲み込んで、たくさん出たね、と栗色の微笑が
口の端を手の甲で拭ったときだった。快楽の途中で浮かんだ答えに
思わず自分で墨を塗って――こいつを無茶苦茶にしてやりたいと
胸の奥で願ったのは。・・それはすぐに、ドアを開けた男の声で
かき消されてしまったけれど。




「・・思ってたより早いじゃねーか」
 もう少し堪えが利くと思ってたけどな、とその黒髪の幼馴染は言い
そっと教え子のズボンを引き剥がした。絨毯によつ這いになった姿勢の
男は、上はシャツ、下はまる裸という卑猥極まりない格好のまま丹念に
俺を舐めまわしている。
「リボーンが、遅いんだよ」
 唾液の滴った先端を舌で転がしながらボンゴレの頭領は答えた。
器用に追い立てられすぎて俺はもう言葉もでない。
「そりゃ、悪かったな」
 リボーンは珍しく謝り、その瞬間俺は嫌な予感がした。彼は
ボンゴレの大腿の間に両手を入れて広げると、その奥にいきなり
己を突きたてた。なんの慣らしも、潤いもないその場所に。
「・・ん、あ・・熱いよ・・リボーン」 
 俺の出したものを零しながら、男が喘ぐ。背中と、腰を揺らして。
「お前も・・今日はずいぶん乗り気だな」
 まんざらでもない幼馴染の口調に、戦慄と後悔が脳裏を駆け抜けた。
虎穴にいらずんば虎児を得ず、というがこれではミイラになったミイラ
取りだ。世の中には入ってしかるべき罠と、どんなに魅力的でもけして
覗いてはならない罠がある。この関係は圧倒的に後者だった。  




「美味しいところ悪いけどな、ちょっとあるつてを紹介して欲しいんだ」
 器用にボスを追い立てながら、そのヒットマンは言った。
行為は燃え盛るくらい熱いのに、言葉は息も凍るほど冷えていた。
「・・そんなにびびるなって、別に戦争をしたいわけじゃない」
 ――ほんの少しだけ、お前の前身の知り合いを紹介して
欲しいんだ。
「・・官邸に奇襲でもかけるつもりか」
「ちょっと違うが、まぁ・・そんなところだ」
 熱心に俺を咥え、ひたすら部下の与える快楽に喘ぐ小さな支配者を
挟んで、契約は速やかに締結した。そうせざるを、得なかった。
「じゃあ、もう少し楽しんでくか?」
 こいつもまだ・・これからだしな、と家庭教師が息を吐いた瞬間
間にいたボンゴレの下腹部が弾けた。吐き出された蜜をすくいゆっくりと
舐め上げた10年来の幼馴染が何故か――地獄で取引を持ちかける
悪魔のように見えた。




( 悪魔の晩餐 )