[ 明日の話 ]
最近オープンしたばかりの高層ビルに二人がやってきたのは
陽も落ちた午後八時だった。ツナが通されたのは最上階の一部屋で
彼はそこが、キャバッローネが出資して興した会社であることを
ディーノの口から知った。
近頃は税関の取り締まりも厳しいので、武器や金品の輸入には専用の会社を
窓口にしているのだ。
この階も見かけは輸入家具の展示場だが、実際はその中に宝石や美術品を多く
積み込んで日本に持ち込んでいた。質流れや盗品も多いので彼らは日本でそれを
売り、資金源にしているのだが、裏事情まではツナは知らない。
「ここもディーノさんの会社なんですか?」
「まぁ・・そんなところだな」
曖昧にディーノは笑って、ツナの肩を抱いた。アンティークの家具を
珍しそうに眺める姿が可愛らしいのでしばらくそばについて歩く。
ほとんどは精巧なイミテーションなのだが彼には見抜けないだろう。
――ボスになればこんなの・・嫌になるくらい見るけどな。
ディーノは苦笑して、一回り小さい彼の身体を抱き上げると
そっと窓に張り出したサイドテーブルに座らせた。腰掛けるとディーノと
ちょうど目が合って、ツナは頬を染めると視線を伏せた。彼の意図を
察したらしい。
ディーノは蒼い目を細めるとツナに近づき、テーブルに手をついて
彼にキスをした。背中の向こうに広がるのは眠らない街の摩天楼。
漆黒のカーテンがかかったような空に、一番星がひとつ覗いている。
ツナはたどたどしくディーノのキスを受け入れた。最初は触れるだけ
それから舌が重なり――口腔も全部、飲み込まれる。息さえ上手く紡げない
キスだった。
「・・ふっ・・ん、・・っあ」
舌と舌が離れるとうっすらと目を開けたツナがディーノの袖を掴んだ。
二人がキスをしているのは窓の外から丸見え――せめてカーテンを閉めるか
電気を消して欲しい、薄紅色の頬がそう伝えてディーノは微笑んだ。
――俺はみんなに、みせてやりたいんだよ。
ディーノはその場にしゃがむとツナのズボンを下着ごと引き抜き
あらわになった大腿の間を両手で開いた。震える内腿から覗いたのは
まだ二次性徴も迎えていないような、ツナの幼い性器だった。
「あっ・・ディーノさん・・!」
慌てて膝を閉じようとしたツナの股を開くと、ディーノはわずかに
形を変えたそれを躊躇無く飲みこんだ。くびれた先端から根元にいたるまで
じっとりと舐めるとツナは仰け反って膝を伸ばした。反り返る首筋さえ扇情的
だった。
「や、だめ・・ディーノさん・・でちゃう・・!」
ぴくぴくと下腹部が収縮を繰り返し、ツナはディーノの口に達した。
ディーノはツナの出したものを全部飲むと、蜜に濡れる先端まで丁寧に
吸い上げた。
「・・ひゃっ・・あ、――あんっ!」
しつこく愛撫されツナはディーノの髪を掴んだ。舐めたって美味しいものでも
飲んだって潤うものでもない。でもディーノが丹念に自分を舌で追い上げるので
もう止まらないのだ――彼の愛撫する部分よりもっと、体の奥が。
「・・ツナ、もうちょっと足――開いて」
ディーノの言葉にツナは頬を赤らめたもののおとなしく従った。一度
達してしまうと恥ずかしさよりももっと、彼が欲しくて――彼に見て欲しくて
たまらなくなるのだ。こういうのって・・とツナは思う。
――俺、だんだんえっちになってるの・・かな。
ディーノはツナの大腿を持ち上げると、背中が窓に付くまで彼の
身体を倒した。テーブルの先から飛び出すように伸びている彼の足が
自分を誘うように震えている。先刻いったばかりのツナの性器を見て
ディーノは微笑んだ。
「・・ツナのここ――すげー可愛い」
まだ女を知らないピンク色、育ち盛りというには小さい小指のサイズ
――だから、いじめたくなるのだとディーノは思った。
「――そんなに、見ないで・・ください」
足を開いたツナが俯くとディーノは前髪をかきあげて彼を見上げた。
「じゃあ、ここでやめとく?」
つんつんとその先端を指で突付くとツナが嬌声を上げた。
「やぁっ・・んぁ・・ディーノさん・・っ!」
やめないで、と涙まじりに言われてディーノは性器に視線を
戻した。その奥の赤い入り口がいじり始めてからずっと震えている
――ツナの腰も落ち着き無いように左右に波を漕いでいた。
ディーノはひとさし指を舐めると唾液もそのままに、ツナの後方に
それを押し込んだ。頭の上で「・・ひゃんっ!」という可愛い声がする。
ぐりぐりと指先を押し込むと関節まで難なく埋め込んだ。それから指先を
腹を探るように伸ばす。ある一点をかすると、ツナが悲鳴を上げた。
「・・いいところ、当たった?」
「や、やだディーノさん・・やめて・・あ、あんっ」
抵抗を示しても体が反応してしまうのだろう、ツナは眉をしかめると
上体を揺らして指の動きに喘いだ。これだけでも十分いけそうな感度だ。
――ちょっと苦しいか・・
ディーノは下腹部の膨張をツナには見せないようにして立ち上がると
その一番いいところをつんつんと指でなぞった。悦楽を煽るように。
「あっ、あっ・・やっ――ん、あ・・ディーノさんっ!!」
「ツナ・・ここがいいんだ」
「――だめです、いっちゃう・・!」
「いってもいいんだぜ?」
指一本で駆け上がるツナはいやいやと首を振った。可愛らしい抵抗
だった。
「やだ・・ディーノさんじゃなきゃ・・や」
「――これも俺だけど?」
随分苛めてしまっているのと思うが、必死に頸を振る姿が愛らしいので
困らせてしまう。どうしても聞きたい――ツナの言葉で。
「ディーノさん・・もっと大きいの・・」
「大きいのって――何?」
ディーノがツナの内部をぐりぐりと擦ると、ツナは仰け反って息を
吐き出した。桃色の先端ははじけそうなくらいそそりたっている。
「・・ディーノさんの、おっきいの・・俺のここに――」
ください、とツナが発した瞬間彼は指を引き抜いて、猛った
自身をそこに押し当てた。膨れた怒張もそのままに押し入れると
広げられる苦痛にツナの表情が浮かんだ。
「・・痛いか?ツナ」
「・・だ、大丈夫・・です」
途切れ途切れの声に愛しくなり彼はツナの髪をくしゃくしゃに
撫でて「ごめんな」と言った。
「あんまり・・ツナが可愛いから」
――ちょっといじわるを、した。
ツナは拒否とは違う意味で頸を振った――彼が入り込んでくるその圧力だけで
意識が飛んでしまいそうになるのだ。
「あっ・・ん、ああっ、ディーノさんっ!」
悲鳴が嬌声に変わる頃には、ディーノはツナを窓に押し付けて己を出し入れ
していた。先端が覗くくらい引き抜いてそれから根元まで押し上げる。出し入れしながら
射精するので吸収されない精液がツナの後方から零れて腿を汚した。それさえ気に
ならないほど彼の動きに身を任せているツナは――今、自分がどこで誰と
何をしているかさえ忘れてしまっている。
ディーノはツナを突き上げながら背中の向こうの夜景を覗いて微笑んだ。
全面曇りガラスになっているので実際窓から部屋の中は見えない。でも
今この街に住むすべての人間に――見せ付けているのだ。腕のなか
にいる彼の恍惚とした表情を、男に抱かれて感じる姿を。
――この部屋に充満するイミテーションではなく本物、俺にとっての
真実を抱いている――ということを。
「や・・あっん・・んあ・・ディーノさんっ・・!!」
細い腕と声が腰に絡み付いて、ディーノは窓の向こうの星空を
眺めながらツナの中に精を吐き出した。行為が終盤を迎える頃には既に
彼の腕の中でツナの意識は途絶えていた。
日差しが差し込んでツナは目を覚ました。起き上がろうにも
腰から下に全く力が入らない――外から見られているかもしれないと
思うと異常に興奮し、彼の動きの激しさに失神してしまったからだ。
――ディーノさんの、ばか。
夜景の綺麗なレストランでディナーを食べよう。
ツナもきっと気に入ると思うぜ?
――そう、言われて来たのに、とツナは思う。
確かにディナーは美味しかった。それから夜景を見に最上階まで
行って・・堪能する前に始まってしまった。
恨めしそうにツナが朝日を眺めると、ドアを開けてディーノが
入ってきた。
「・・おはよう、ツナ」
大丈夫か、と尋ねて彼のツナの腰をさすった。腰が抜けてしまったのは
彼が起き上がれないだけでも十分見て取れたからだ。さすがにやりすぎたな
とディーノは反省した。ただしいつも三日坊主になる。
「悪かった・・ごめん」
今日、学校休むってリボーンに連絡しておいてやるから――と
ディーノがベッドから立とうとした時だった。ツナは彼のシャツを引いて
「・・もう言ってあるんで大丈夫です」と答えた。
「・・え?」
「昨日言っておいたんです。明後日帰るから学校・・休む・・って」
ツナはシャツから手を離すと、俯いて頬を赤らめた。潤んだ目が
所在なく瞬きをして、ディーノは言葉の真意に微笑んだ。明日が休みと
昨日一言も言わなかった理由。それはきっと――
「・・だって休むなんて言ったら・・俺までそんな気みたいで・・」
「そんな気だったんじゃねーの?」
「・・ディーノさんのばか」
「――俺、馬鹿だぜ?」
ディーノはくすりと笑うとツナを膝の間に乗せた。腰をしっかり支えて
抱きしめると、観念したツナは身体を彼に預けた――数分後また火がついて
しまうなんて・・知らずに。
「ねぇ・・ディーノさん」
彼の腕の中にいると腰の気だるさも、体の奥の痛さも全部切なさに
変わるような気がする。ディーノさんはずるい、とツナは思う。
また世が明けたら自分を置いていくような人に恋をしている。
その人の願い事なら全部聞いてしまいそうな自分が存在する。
彼には絶対、知られたくないけれど。
「・・何だ?――ツナ」
ディーノは名前を呼ぶとその癖っ毛にそっとキスをした。華奢な
輪郭を確かめるように。昨日あんなに抱いて確かめたのに、手を離したら
遠くへ行ってしまいそうでついつい――止まらなくなってしまうのは
ツナには内緒だ。それでも自分の無理に泣きながら答えてくれるのが
嬉しくて、最後まで無茶をしてしまう。
「・・何でもない、です」
ツナは答えて瞳を閉じた。こうしているときたまらなく愛を感じるのに
ふいに泣きたくなる。その理由が分からない。
ディーノは無言でツナの髪に顎を乗せた。自分だけのもの、と言わんばかりに。
部下が見たら仰天するだろうが世界で欲しいものは一つしかないのだ。
それが腕の中にいる朝。幸せ以外、形容しようがない。
――本当に、どうかしてる・・
本物の模造品がひしめく部屋の片隅で二人は、互いの気持ちを抱きしめた。
二人がそれを真実だと知るのは――まだずっと先・・栗色の髪の少年が
彼と同じ十代目の称号を手に入れ、頂上の景色を知る頃――
いうなれば十年先の「明日」のことだった。