[ 睦言 ]
繋がりあったところが引き離されると、絶頂とは
違う極みが俺の身体を襲った。いっぱいになった胸が
急に空になって、そこに注ぎ込めるだけ切なさを詰め込んだ
ようだった。俺に、泣きたくなるような虚脱感を教えてくれたのは
彼だった。
「ったく・・もう少し堪えられないのか?」
呆れた顔で額に張り付いた前髪を掻き揚げた彼は
一緒に達した早々悪態をついた。彼の骨の髄まで
仕込まれた俺の体は、快楽や悦楽には滅法耐えが
効かない。彼が触れるだけで切なくなる身体の節々は
もう幾度となく残らない跡に縛り付けられていた。
俯いて湿ったシーツに額をこすり付けると、頭上で
彼の気配が笑った。
「本当にお前は・・ダメツナだな」
俺がそう呼ばれることを嫌っていること。それを
あえて知っている彼はわざと語尾を強めた。相手を
焦らすことと、悦びを我慢することだけは、彼は
俺に教えなかったように思う。だから俺の彼の前でだけ
正直に跳ねあがる檻の中の兎みたいになっていた。
俺は真っ黒な髪が張り付いた項に手を回すと、残った
力で彼の頸を引き、薄ら笑いを浮かべる頬に唇を落とした。
俺が彼から教わったのは、効果的な誘い方と煽り方・・そして
もっとも有効なおねだりの仕方だった。
「ねぇ、リボーン・・もう一回、・・しよ?」
耳元で出来るだけ小さく告げると、汗の滲んだ皮膚が
ゆっくりと身体の上に降りてきた。
「なんだ・・まだ足らないのか?」
冷たい言葉は何故だか嬉しそうだった。すでに熱く猛った
彼の一部が俺の大腿に当たって、俺はそれを受け入れるかのように
腰を浮かした。
「ほんとにお前は――馬鹿だな」
そう吐き捨てて彼は、さっきまでさんざん突き上げた俺の
腰を持ち上げると、すでに杭のようになったそれを
俺の中にゆっくりと差し入れた。
じわじわと内部を広げていく熱と圧迫感に
思わず眉根を歪めると、彼は身を屈めて俺の
涙の滲んだ目じりにキスをした。
「幾らでも抱いてやるよ――お前が望むなら」
――そうすれば、お前も俺がどんな気持ちでいるか
少しくらい分かるだろう。
ちょっと足りないお前の脳みそでも、な。
頭上で零れた彼の声に、俺は擦れるシーツを握りしめながら
眼を開けた。聞き間違いかも知れないが、ひどく優しい
響きだった。
「な、何?――リボーン・・」
聞き漏らしてしまったのが惜しくて彼にしがみ付くと
リボーンは俺の両足を持ち上げて熱い異物を根元まで
打ち付けた。
「――やっ・・あぁ、――っあぁ!」
ぶつかる質の違う肉が擦れ、悲鳴を上げた俺の背筋が
仰け反る。一気に上り詰めそうになって、俺は慌てて
意識を破裂しそうな下腹部に戻した。
「お前はこっちに集中してろ」
そう刺すように言った彼の眼が少しだけ笑っていたのは・・
――気のせい、だったのだろうか?
(一万ヒット部屋より再録)