「随分遅かったですね」

 玄関をくぐり抜けかばんを受け取るとディーノさんは
ジャケットを脱ぎながら「ちび達は?」と言った。

「あ・・初詣に行きました」

 除夜の鐘をつくって張り切っちゃって、と答えると彼は
ネクタイを緩め「じゃあツナと二人っきり?」と言った。
 いつもより低いその声になぜか心臓が高鳴り俺は、
「おせち出します」そう言って背中を向けた。その時だった。

「・・ツナ」

 耳元に甘い声を感じた瞬間、俺の身体はすでに、彼の両腕に囚われていた。

「あ・・ディーノさん、駄目です」
「なんで?」

 首に息が触れる。舐められていると気づいた瞬間背筋が総毛だった。

「・・だって」

 今日は、彼と初めて過ごす大晦日で。  イタリアからわざわざ来てくれたディーノさんと、
おせちを食べて紅白を見て・・そんなささやかな正月を楽しみにしていたのに。

 シャツのボタンをはずされ、ズボンのチャックを下ろされる。
 どこか他人事のようなその音を、ぼんやりと聞いていたら、
ディーノさんの右手がふいに俺の下腹部をつかんだ。

  「・・あっ・・!」
「ここ――硬くなってる」

 なってない。そうしてるのはきっといたずらな彼の手で。

「やだやだ・・っ、ん・・あ」
「・・俺だってほら」

 こんなに硬いだろ?そうディーノさんの主張を見せられた時には
俺は、彼の凶器を何のためらいもなく口に含んでいた。

「・・上手になったな、ツナ」

 彼を丹念に舐め上げると、ディーノさんは嬉しそうに俺の額を撫でた。
自分でもなぜこんな熱いものを舐め、苦いものを飲み干してしまうのかよく分からない。
最初は怖くて、正面から見ることもできなかったのに。

「――こんなに濡れて、さ」
「や・・っ駄目・・ですっ・・」

 ディーノさんは俺の後ろをぐりぐりと指で責めると、舌を出して俺の先走りを舐めた。

「・・感じる?」
「っ・・く・・ぅ・・んぁ・・ディーノさ・・」

 嬉しそうな彼の声がいっそう、俺の下半身を膨張させる。
そんなに喜ばないで。見境をなくして、しまうから。

「・・ツナのいやらしいとこ、もっと・・よく見せて?」

 言われるがままに足を開いた。
 ディーノさんは俺の下腹部をまじまじと眺めている。
 憂いを含んだ青い眼に下半身が映っている――というだけで興奮してしまう。
 俺は、いやらしい人間になってしまってのかもしれない。

「ここ・・何が欲しい?」

 まだ何の湿り気のないそこに、ディーノさんの指が入る。
 人差し指と中指で器用に内壁を広げ、かき回しながら侵入する。
 にゅるにゅると卑猥な音が漏れ、思わず耳を塞ぎたくなった。

「・・っあ・・っ、ん・・ぁ」
「言わないとあげないよ」

 分かっているくせに。ディーノさんは俺の中でくるくると指を回した。
そんなに深く入れられたらいっそ、身体より先に気が、くるってしまう。

「・・ください・・ディーノさんの、おっきいの・・」

 そう、言った瞬間にはもう、入り口に先端が触れていた。
 激しく突き上げられて気づいた。
 ディーノさんもずっと、我慢してたんだ。

「・・ツナ、目・・開けてみて」
「・・あ・・」

 荒い息遣いに誘われるままに目を開けた。
 俺とディーノさんの目の前に全身が映る大きさの鏡があった。
 二人とも何も身に着けてはいない。
 俺がディーノさんの上に背中を向いて腰掛けている。
 繋がったところは吐き出したもので光を反射するほど濡れていた。
 直視するのもためらわれるくらい淫乱な光景だった。

「・・やらしいなぁ、ツナ」 

 こんなにくわえ込んで、と言うディーノさんの先端が
俺の身体を突き上げる。
 擦られた瞬間意識が飛びそうになって、俺は自分の太ももを掴んだ。
持つ所がそこしか、無かった。

「・・あっ・・や、・・ディーノさん・・あっ」

 鏡に映るのは、ディーノさんに突き上げられ、恥じらいも無く両足を広げる俺。
精液と体液が一緒になってもう、どこから溢れているのか分からない。

「――こんなこと、してんだぜ。俺たち・・」

 もうすぐ年が明けるってのにな。
 そういうディーノさんの声がどこか暗くて、俺の腰にきた。
 射精してしまったのだ。

「・・やっ・・ディーノさん・・ああ!」
「・・でも、こんなにいやらしいのも、ツナなんだよな」

 ディーノさんは俺を膝の上に乗せ、ぐりぐりと腰を揺らした。
 何回中に出されたのか分からない。フローリングはべたべただ。
 掃除しなきゃ、なんて場違いな思いが脳裏をよぎる。

「――どっちも、好きすぎて・・駄目かも」

 ディーノさんの唇が近づいて、俺は身体を曲げ、夢中で舌を吸った。
 気持ちがよくて、苦しくて、おかしい。
 愛することを怖いと思ったのは初めてだった。底が無いのだ。

――駄目かもしれないのなら。
 いっそ落ちてしまうのも術かもしれない。
 どんな暗闇に包まれても朝は来る。
 太陽は誰の上にも平等に昇るだろう。

 愛の海に溺れる、恋人達の上にも。