[ 代理教師 ]




「・・泣いたって知らないからな、コラ」


 呆れ顔のコロネロが息を吐くと、やっぱりだめ?と
ボンゴレ10代目は小さな赤い舌をぺろりと出した。


「だって、この資料読んどかないとリボーンに殺されちゃうんだもん・・」


 めそめそと泣き真似をしたと思ったのもつかの間、イタリアでも五本の
指にはいるマフィアの頭は縋りつくような視線を目の前の金髪の男に
送った――正確には、腕組をしたその両手にすがり付いていた。


「・・だからね、お願い!イタリア語、教えて・・?」


 イタリアの裏社会を牛耳る男に、どんな腹心の部下にだって見せない表情で迫られて、
悪い気のしない男などいないのだろう。それはコロネロも同じことだった。
――それも奴の計算のうちだと、重々承知していたわけだけれども。


「例の右腕はどこ行った?」
「・・獄寺くんは出張中なの!」
(――どこまで、本当だか)
「リボーンに謝ればいいだろ」
「・・そんなの俺が、お仕置きされちゃうよ」
(そういうのも趣味なんじゃねーのか?)
「頼りになるっていう兄弟子に――」
「・・俺が頼りにしてるのは、君なんだってばっ!」


・・どうしてそこまで、必死なんだ?


「・・分かったから、腕離せって」  


そんなに至近距離で睨まれると、俺の心臓がやばいんだよ。


「・・教えてやる、何でも好きなこと教えてやるよ!」


ぶらっきぼうに言い放った男の言葉に、喜色を全面に表したボンゴレの
頭領が抱きついたのは敗北宣言の五秒後だった。


「ね、じゃあまずは・・」


 耳元で湧き上がるような声を上げたツナの身体を引くと、コロネロは
その背中を真後ろにあったソファーに押し付けた。


「俺は・・身体で教えるタイプだからな?」


 恐らくは彼の専属家庭教師も同じ部類に属するのだろうが
コロネロは頭の隅でその存在をかき消した。手を出したら殺される
かもしれないとさえ・・一瞬思い描いてしまったけれども。



「・・大丈夫、俺もの覚えは悪いから・・」


 だからたくさん、教えてね?・・そう抱き寄せられてコロネロは
二時間後の自分の予想図を死体から、健康体に描き換えた。


 死ぬのが怖くて手を出せないなら、最初から恋になど落ちない。


 みずみずしい素肌に熱を絡めたら、細い腕がそっと頸に巻きついて。
柔らかい内壁を高ぶりで侵したら、この弱い胸を席巻する思いを涙の
持ち主に伝えてやりたくなった。


――俺が教えてやることなんて、何ひとつねぇよ・・


 既に男に愛されることを、開発され尽くした身体だった。