人生一度は万博だね、なんて歌うCMを見ていて
「いいなぁ」なんてぽつりと俺が言ったら。
「じゃあ明日行きましょう」と彼は蒼い瞳を
きらきらと輝かせて答えた。
[ beautiful days ]
まず最初に、彼が確保した交通手段に参った。
玄関を出たら目の前に、小型ヘリが着陸していたのだ。
――いつのまに!?・・って道路は!?
突っ込みどころが万歳過ぎて、常識という感覚が
崩壊する。彼と一緒にいればよくあることだ。
彼は公共道路を爆破して、ちゃっかりヘリポートを
うちの玄関先に作っていた――正しくは、ブロック塀を壊して
ヘリが止まれる空間を確保していたのだ。
帰ってきてから、近所の方や市民課の皆さんにかけるで
あろう多大な迷惑を想像しながら、俺は浮き上がるくらい
ご機嫌な彼の手に引かれて小型ヘリに乗った。
一度エンジンがかかると止められないその性格も熟知していたし
彼は俺のためになると思うことなら何でもする点については
いつでも惜しみないのだ(正確に言うと、ブレーキがない)。
何についても猪突猛進、頭はいいのに全く後先を考えない彼の
行動が・・俺はとても好きだった。いつでもよくない想像を
先回りして、かけなくてもいいブレーキを踏んでしまう俺は
彼の行動力がほんの少し、うらやましかった。
小さくなる並盛の町並みを見送ると、俺は隣に座る彼の
横顔をそっと見た。俺の視線に気が付くと、彼はぱあっと
表情を明るくした。
「楽しみっすね!」と彼は言った。俺はうん、とつられて頷いた。
青銅色の瞳が細くなり、綻ぶような微笑を見たときに跳ね上がった鼓動、とか。
触れた肩先の温かさに切なくなった胸のうち、とか。
気恥ずかしくて甘酸っぱいそれを知られるのが
――何故か恐くて、俺は下を向いて両の拳を握った。
ちょうどよいことに俺は、高所恐怖症だった。
(続きます)