何度か唇を重ねてから、少年は伺うようにディーノを
見つめた。彼の蒼い瞳に憂いと、贖罪が滲んでいることを
悟ると――少年はディーノの頸に両手を回し、その口付けを
受け入れた。
もしかしたら、ずっとこうなることを望んでいたかもしれ
なかった。心よりも思いよりも深く結び合えたら・・この部屋を
出なくて済むような気がした。
夕暮れ越しに触れたディーノの肌は思っていたよりも日に焼けていて
少年はその均整のとれた筋肉をなぞると、僅かな痛みに眉根を寄せながら
ゆっくりと――彼を、受け入れた。
眼を覚ますと、トーストとコーヒーの苦い香がした。
少年はけだるくなった腰を摩りながら、そろそろと起きて
リビングを覗いた。
ディーノはチャックのエプロンをつけて、フライパンを
ひっくり返していた。彼の焼いた目玉焼きはところどころ
半熟だった。彼は少年を眼が合うと、にっこりと微笑み
「おはよう」と言った。
「・・おはよう、ございます」
テーブルには二人分の食器が並べてあった。
ディーノは「ここらへんは店がないから、自炊しなきゃなー」
と笑い、牛乳をグラスに注いだ。
「体・・大丈夫か?」
「あ、・・はい」
少年は下腹部に手を当てると、頬を染めて答えた。
昨日の晩彼に愛された体のあちこちが切ない分、叶わない願いを
望むこころは張り裂けそうだった。
「ディーノさん・・俺」
シャツの端を引っ張りながら、少年は俯いて話した。
彼のそばにいられるなら――身体でも何でも引き渡したかった。
飽きられたら、捨てられるかもしれない。二度と離れたくないなんて
わがままは言わないだからせめて――
「・・ディーノさんのそばに、いてもいいですか?」
ディーノはバターを冷蔵庫から取り出しながら、少年の
言葉に振り向いた。
「俺、なんでもします。食事だってつくるし、掃除だって
します。ディーノさんが望めば・・何だってします。
もう金輪際ディーノさんには迷惑かけません――だから
もう少しだけ・・そばに・・いさせてください」
一度に吐き出した思いは、大粒の涙と共に零れた。
ディーノはバターを置くと、少年の小刻みに震える
身体をゆっくりと・・抱きしめた。
「俺・・ずっとお前を離さないつもりだったんだけどな」
彼の言葉に、少年は大きく眼を見開いた。真っ白なシャツ
越しに伝わる熱も、朝日に輝く髪も何もかも愛おしかった。
「本当に・・俺でいいのか?」
ディーノの両腕に込められた力に、少年はただ頷いた。
この世界で彼以外望むものなど・・無かった。
――貴方のそばにいられるだけで俺は・・
少年はディーノの背中に手を回すと、力の限り
彼を抱きしめた。別れの夜一緒に寝たときより、彼は
幾分か・・痩せたようだった。