小さな可愛らしい犬が
くりくりとした瞳を潤ませて
ショーウインドーから見つめるCMを見てから
俺も犬が欲しくなった。
[ Be My Dog ]
その大きな犬を玄関先で見つけたのは
ある晴れた日の夕方、だった。
学校から帰った俺は、うちの前の道路に
黒い毛皮の塊が落ちているのに気がついた。
近づいてみてみるとそれは・・
全身黒い毛並みに覆われた、今まで見たこともない
大きな犬――だった。
――どうしよう・・
恐る恐る覗き込むと、それは身を丸く畳んで
震えていた。眼を閉じたまま紅い舌をべろんと出し、
息も絶え絶えで苦しそうである。
――調子・・悪いのか。
俺は母親を呼んで、その犬を抱きかかえた。
触ってみると、それは体温も低く、おまけに
がりがりに痩せていた。
「よく食うなぁ・・お前」
夕食の焼きそばに、ハム、食パン・・
犬って雑食だったのか!?と思うくらいそいつは
がつがつと何でも食べた。
ただし母親が気を利かせて買ってきた
ドッグフードには目もくれなかったが。
俺が用意した食事を平らげると、そいつは
ありがとうと言わんばかりに「ワン!」と鳴いた。
――腹が減って、動けなかったんだな・・
元気になった様子に安堵してから、俺は
そいつをまじまじとみた。
柴犬よりは大きいけど、ゴールデンレトリバー
よりは小さいそのサイズ。
ピンとたった耳、狐のような面長の顔。
鋭い眼光と、ふさふさの尻尾。
――こんな真っ黒い犬いたっけ・・
俺は犬の本をぱらぱらとめくったけれど
どうも思い当たる犬種はなかった。
今流行の・・混血型かな?
そう思うと、なおさら飼い主が血眼になって
探している気がして、俺は胸が痛んだ。
せっかく元気になったんだ、明日から
本格的に飼い主を探してやろう、と俺は
思った。
渦中の犬は座布団の上ですやすやと
寝息を立てていた。
<続きます>