それからの彼と、俺のこと・・もう少しだけ。
[ He is my Only ]
獄寺君が俺の家にやってきて、最初は大きな犬の姿を
していた彼が人間の姿に戻って・・
変わったこともたくさんあったし、変わらないものも
同じくらいたくさんあった。
まずは、寝る場所。
「十代目と同じベッドでなんて、とんでもない!」
と人間に戻ってからはそれを頑なに拒否していた
彼だったが。
「一緒のベッドで寝なきゃ、もう部屋に入れてあげない」
と俺が言ったら、彼は申し訳なさそうに俯いてしぶしぶ
布団の中に入った。
・・獄寺君、顔真っ赤なんだけど?
「・・そんな端にいたら落ちちゃうよ。もっと
こっち来なよ」
彼はベッドのぎりぎり端、いわば断崖絶壁みたいな
ところで小さく丸くなっていた。
俺のベッドは一人用だけど、俺が壁側に寄れば二人でも
十分寝られるサイズだった。
「ここで十分です・・」
寝返りを打ったら床に叩きつけられそうな位置で、丸くなる
彼が本当に犬みたいで・・
「駄目だってば・・もっとこっちおいでよ」
見かねて俺が彼の右腕を引くと、振り返った彼は茹蛸みたいに
まっかっかになっていた。
勘弁してください、十代目と彼は蚊の鳴くような声で
言った。額いっぱいに汗をかきながら、彼はなんだか
いろいろなもの――理性や本能と戦っているみたい
だった。
そんな真っ赤な彼の困り果てた表情を見ていたら
俺の顔も熱くなって首筋も汗ばんできた。
――なんだか、おれが誘っているみたいで
・・そんなつもりはなくても(俺はどちらでもいいのだけど)
照れてしまって返す言葉が無い。
獄寺君が・・あまりに申し訳ない顔をするから、さ。
「・・我慢しなくて、いいから」
しばらく悩んだ後、彼の眼を見ないでそう言うと
彼は、堰を切ったように表情を和らげて俺に飛びついてきた。
その変わり身の早いこと――って!
「・・んんっ、・・ふ――あっ!」
いきなり飛び込んできた彼のキスがあまりにも激しくて
俺は思わず彼の背中をどんどんと叩いた。
いつのまにか、彼は俺の上に圧し掛かっていて
一緒に並んで寝るはずが・・すでに臨戦態勢だった。
「あ、す・・すいません、十代目!」
唇を離した彼から洩れた言葉に、俺は苦笑した。
問答無用で押し倒してから、土下座くらいの勢いで謝るのは
きっと獄寺君くらいだと思うんだ。
慌てて身を翻し、俺の上から降りようとした彼の右腕を
俺は――かかさずにつかんだ。
どんなに恥ずかしくても、中途半端に火の付いてしまった体のまま
一緒に寝ることなんて酷なことだった。
「明日・・学校休みだから・・」
――大丈夫だから、ね、と俺が瞳を伏せながら言うと
彼の唇が雨みたいに降りてきた。繰り返し、繰り返し。
深く、浅く。なめる様になぞる様に。
我慢していた分だけ彼は、始めてしまうと本当に余裕がない。
パジャマの上も下もとっぱらってしまった彼の素肌を
抱きしめながら俺は・・彼に我慢をさせることだけは
やめておこう、と心に誓った。
(続く)