「まだこんなところにいたの?」



 呆れるような声に振り向くと、リビングのドアの前に
学ランを来た男の人が立っていた。真っ黒な髪と眼は
目の前のリボーンと変わらない、なのに。彼の視線は
凍りつくように冷たい・・そんな感じだった。

 雲雀、と彼は目の前の新たな不法侵入者の名前を呼ぶと
「いろいろ説明に戸惑ってな」
 と、肩をすくめた。顔見知りのようだった。


「君を見て逃げたでしょ?」
 くすくす、と学ランの人が笑うのでリボーンは照れたのか
頬を赤らめた。ちょっと迷惑そうでもあった。
「仕方ねーだろ。ビアンキだってそろそろ
追いかけてくる頃合だからな」


 次々と出てくる聞きなれない名前に俺がぽかんと
二人を眺めていると、リボーンは俺の方を向いて
ひとつ息を吐いた。観念した、という顔だった。


「あいつの姉が・・すべての元凶だっんだ」


――獄寺君の、お姉さんが?


 リボーンの告白に、俺は問うように真っ黒な瞳を
覗いた。衝撃的なことを聞かされすぎて、目に溜まった
涙も奥に引っ込んでしまった。


「あいつの姉は・・手元が半端じゃなく狂った魔女でな。
そいつが・・まぁ追い掛け回される弟を不憫に思って
魔法をかけたんだ」


「・・じゃあ悪い魔法使いに、犬の姿にされてたって・・」


「正確にいえば、毛並みを黒くするだけの魔法だったんだ。
灰色は魔力が強いから、黒に化ければ少しは追っ手を減らせる
・・そういう算段だったろうな」


 リボーンは腕組をして、ため息をついた。彼女がかけた魔法は
それだけではなかったらしい。


「ついでに・・あいつは黒の皮だけじゃなく、忠犬になる
魔法にまでかかってしまったんだ。――その呪いを解いてくれた
人物に、生涯の忠誠を誓うっていうな」


 彼の言葉に、俺の息が止まった。・・じゃあ、彼が俺のことを
――大切に思ってくれたのは・・


 あんなに優しい顔で、十代目って呼んでくれたのは・・


――それが、魔法の効果だから。



 返事の次げない俺を一瞥すると、リボーンはもう一度息を
吐いた。俺がショックを受けるのを、予見しての発言だった
ようだ。


「とにかく、魔法をかけられたショックであいつは大の
姉嫌いになってな。ビアンキの姿を見ると、全身の毛が抜けて
しばらく寝込むんだ。その間ひどい夢を見るらしい」


 いっそ石にでもされたほうがまし、と獄寺君は言っていた
らしいが・・彼の言葉はほとんど耳には届かなかった。
 そのお姉さんがリボーンのファンで、彼を・・世界中を股に
かけて追い掛け回しているらしい――ということも。


 茫然としたまま声の出ない俺を見やると、リボーンは
帽子のつばを下げて背中を向けた。
 真実を聞かされた心から、取り戻せない思いが悲鳴を
上げて、俺の目元から一筋・・涙が零れた。