『今度の餌食』・・そう言った雲雀さんの言葉を思い出す。
リボーンの話が本当だとすれば――彼にかけられた
呪いが確かに存在するのなら・・
次に、死ぬのは――
何も飲み込めない喉の外で、冷や汗が滴った。
次から次へと明かされる事情に、俺にはまだ事実が
飲み込めない。
彼が犬じゃなくて、本当は狼だったこと。
そして彼が本当は強力な魔力を持った希少な灰色の
狼で・・ハンターから逃れるため黒色に変装していたこと。
その魔法をかけたのは・・彼の苦手なお姉さんで
しかも同時に彼は忠犬になる魔法と、主人を早く失う
呪い両方にかかっている――
彼はあの広い背中にこんなにもたくさんのものを
負っていた。・・俺には、何一つ教えてくれなかった。
(忠誠を誓う魔法にかかっているからなのかもしれないけど)
教える必要もなかったのかも、しれない。
彼がどんな姿で、どこで何をしていたか
――それを知ることになっても、俺と獄寺君は
変わらない。変えるつもりもない。ずっと・・
二人で一緒にいられる、そう思っていたから。
「・・でも、何で呪いなの?」
俺の問いに、リボーンは塀にもたれ掛かりながら
腕組みをした。長い話になりそうだった。
「元来、魔法ってもんには代償が必要なんだ」
魔女が生けにえを自分への災いを防ぐために使うのも
同じ理由だ、と彼は付け加えて
「まして天命から頂いた毛並みの色を変えるって言うのは
けっこうな罪なんだ。灰色の狼は神聖な生き物だからな」
ま、あいつの姉がおかしな呪文を使うからことがややこしく
なったんだけど、とリボーンは息を吐いた。
「灰色を黒に変えた時点で、あいつは忠犬のリスクを負った」
そこまでは分かるな、と言われて俺は頷いた。毛並みの変わりに
忠誠を誓うことになったと言うことだ。
「あいつはもうひとつ取引をすることになった。・・それは主人の
命、だ」
リボーンの言葉に俺は目を丸くした。彼の言葉はにわかには
信じがたい事実だった。
「あいつは死んだ主人の残した寿命で生き延びてる。あいつは・・
自分がこころから尽くした人間の命で生きる――そういう宿命を
負っているんだよ」
「・・・」
返事は出来なかった。ただ主人が早くに亡くなるわけじゃない
――獄寺君は最愛のひとの残した命で生きてる。餌食、と称した雲雀さんの
意図が初めて分かって俺はその場に立ち尽くした・・
あまりにも、信じがたい真実が多すぎる。
そしてそのひとつが、見事に俺の心臓を貫いた。
・・じゃあ俺は、獄寺君のために――死ぬの?
彼が哀しい笑みを残して部屋から去った状況と
今度は逆だ。
俺のいない世界で彼が生きる。
――それは、俺にとっては受け入れられても
彼にとっては本意ではないかもしれない。
一生ずっと一緒にいたい人の命で生き続けるなんて
神様は――残酷だ。
「・・その呪いを解く方法はないの?」
尋ねた声は上ずっていた。見下ろした黒い瞳は
視線を影に落として
「あいつが死ぬしか、方法はねぇよ」
と、言った。