[ ディノツナのとある日常 ]




 じゃあ今日は帰るな、とディーノが言うとツナはふぅ、と
大きくため息をついた。いつも自分の姿を見つけるたびに
抱きしめてキスをする、大きな子供のような兄弟子が、
帰ると心にぽっかりと穴が開いたような気分になるのだ。
その理由はツナにも薄々分かっていたが、努めて深く考え
ないようにしようと彼は思っていた。


「なんだ、ツナ。俺がいなくなると寂しーのか?」 
 ディーノに言われてツナは真っ赤になった。見透かされ
ながらも必死に反論するところが可愛らしかった。
「べ、別にそんなわけじゃ・・」
「そう向きになるなって・・俺だって寂しいんだ」
「――ディーノさん・・」
 青い目を伏せるように視線を落としたディーノは
思いついたように懐から一枚の写真を取り出した。
中央で王子様のような笑みを浮かべているのは、彼本人
であった。
「・・これ取っときな。俺がいなくても・・思い出せるだろ?」
 ありがとうございます、とツナは写真を受け取った。
なかなかに写りが良く、被写体も美形なため一昔前の
ブロマイドのようであった。ハリウッド俳優と言っても
疑われなさそうな容姿だ、ツナは写真を見てしばしぼーっと
していた。
――やっぱりかっこいいよなぁ・・ディーノさんて。
 ディーノはそんなツナを見やると「気にいったか?」と
複数の写真を手帳から差し出した。馬に乗るディーノ、スーツを
着たディーノ、バイオリンを弾くディーノ、柔道着を着たディーノ等々
あらゆる彼の一面を示す写真に、ツナは感嘆の声をあげた。
「凄い・・ディーノさんて多趣味なんですね」
「まぁ・・たしなむ程度にな」
 実際馬から落ち、バイオリンは壊れ、柔道ではあの世へいきそうに
なったが口には出さない。ディーノはツナの手から写真を抜くと
彼の肩に手を置いてこう言った。
「でも、実際の俺の方が何倍もいいだろ?」
 金髪の下の蒼い瞳が微笑み、つられてツナの頬も赤くなった。
二人がいい雰囲気になりかけた、その瞬間だった。


 ディーノの手帳が床に音を立てて落ち、その中身が散らばった。
皮の手帳から溢れるように出てきたのは・・目の前にいるツナの
写真だった。
「・・ディーノさん、これ」
 写真を拾ってツナは絶句した。全部カメラの方を向いていない・・
いわゆる盗撮されたものだった。どこで撮影したのか、着替えている
ものまであった。
「あ・・いや・・これは」
 答えるディーノはしどろもどろである。
「・・ディーノさんの馬鹿、変態・・!!」
 写真を握り締めてツナは叫んだ。ディーノには返す言葉も無い。
「・・ツナ、すまん。これはな」
「言い訳は聞きません。もうディーノさんなんて知らない!」
「寂しかったんだ、俺も・・」


 みるみるうちにディーノがしょんぼりとしていったので
ツナは少しだけ彼が哀れになった。自分の写った写真を処分してから
ツナは「・・もういいですよ」と言った。
「これからは・・ちゃんと俺に一声かけてくださいね」
「分かった・・盗聴器も、外すよ」




 ディーノは一週間沢田家から締め出された。
それからツナの機嫌を直そうとディーノがあれこれ手を焼いたことは
――言うまでも、ない。







インテでお世話になった小林さんへプレゼントvv
(返品可です。ごめんなさい)