kill me, kiss me , love me
「このまま死にたい」って思ったことは俺には無い。
少なくとも、今まで生きてきた中には。
逃げたいとか、やりたくないとか、そういった
後ろ向きな願いを抱くことは沢山あったけれど。
自分の時間を止めてしまいたいと思ったことは、
俺の人生の中で一度も、無かった。
きっかけは、兄弟子の一言。
ディーノさんが俺に、好きだと告げた。
それは穏便に平穏に生きてきた、これからもずっと
そうだと信じていた俺にとって、革命的なことだった。
――だって、信じられないよ?普通。
あんなに強くて、かっこよくて、綺麗で。
部下の人がいないと全然駄目で。箸も上手く使えないし、
ビスケットは食べこぼしてしまうそんな、
おっちょこちょいの王子様のような人が。
その名前を聞くだけでイタリア中のマフィアが震え上がり、
その足元にひれ伏す、それだけの権力と地位と名誉を持つ人が。
――何の取り柄もない、どこにでもいるような中学生を、好きだなんて・・。
「どうしたらツナに、信じてもらえるのかな」
俺が戸惑うと、ディーノさんは困ったように青い眼を曇らせた。
揺れる彼の眼差しを見て気づいたんだ。
彼にそんな顔だけはさせたくないと祈っていたことに。
この聡明で美しい人の眼差しを曇らすなんてこと、俺には到底出来ない。
・・だから。
彼がどうしたら笑ってくれるのか脳みその無い頭で必死に考えた。
「俺も・・ディーノさんのこと、好きです」
そう告げたときの、彼の安堵したような微笑。
何百万の薔薇が束になったって構わないその微笑を眺めたとき俺は。
この人だけは悲しませない、そう、誓ったんだ。
「俺も・・好きだよ」
ディーノさんの触れたところから何かが溢れて、俺の中は彼一色になってしまった。
どこかでこうなることを、夢見ていたのかもしれない。
叶わないと知りながら。憧れは、掴み取れないもの、と諦めて。
――ほんとにディーノさん・・俺のこと・・好きなんだ・・。
俺を追い上げるコバルトブルーの眼差しを眺めながら、そんなことを想う。
時を止めてしまいたいと。
このまま、彼に愛されたまま、一生を終えてしまいたいと、さえ。
そんなことを言ったら、いつだって前向きで建設的な
ディーノさんは絶対反対するだろうな・・俺達はこれからだろって。
――愛されるまで、それが幸せだと知らなかった。
ディーノさんが教えてくれた、二度と這い出すことの出来ない深み。
それを愛と呼ぶなら。
囚われたまま、繋がれたまま、死んでしまいたい。
「・・ツナ?」
どうかしたか、と俺の肩口に顔を埋めていたディーノさんが言った。
密着した二人から滴る汗が、シーツに淡い染みを作っていく。
「何でもないです、ディーノさん・・」
――だからお願いです・・もっと・・続けて。
唇に嘘を重ねながら、鍛えられた胸板に顔を寄せる。
境目のないくらい繋いで。
しがらみの愛で、俺を、いかせて。
放たれるまで俺達の頭上に
太陽は昇らせない。