何かが焦げるような匂いがして、二人が振り向くと
川の上流の森から、もくもくと黒い煙が立ち昇っていた。
嫌な予感が二人を襲い、ツナと少年は無言のまま煙の方に
向かって走り出していた。
[ deep blue forest 4 ]
全焼していたのはツナが棲んでいた、わらぶき屋根の掘っ立て小屋
だった。長男が連れてきた部下の仕業なのだろうか、あたりは油臭い匂いが
立ちこめ火の燃え上がり方も尋常ではなかった。
ツナの家が燃え尽きたあと、火の勢いは和らいだ。山火事に発展するのを
防ぐため、二人は協力して小川から水を汲みあげ、鎮火させた。
跡形もなくなってしまった住居の前で、ツナは膝をついて立ち尽くした。
棲むべき場所も、頼るべきひともない。あの男たちがまた襲ってくるとも
限らない・・
ツナの眼に大粒の涙が溢れた。手に入れたささやかな幸せは、ほんのわずかの
間で踏みにじられ・・何もかも失ってしまった。
――どうして、こんなことを・・。
あの男達は自分に恨みがあるのだろうか。それともこれは村を捨てた罰なのか。
ツナは途方にくれてうな垂れた。夢も希望も既に枯れ果てていた。
「よかったら・・俺の家に来ませんか?」
しばらくしておもむろに、少年は口を開いた。振り向いたツナは
少年が差し出した手を握って立ち上がった。
「・・いいの?」
腫れ上がった眼を擦り、掠れた声でたずねたツナに
「貴方さえよければ」
と少年は柔らかく答える。
ツナは、手をつないだまま少年を見上げた。
夕暮れに紅く染まった髪と、森の小川よりも蒼い瞳。彼は確かに
これまで会ったどの人間とも容姿が異なっていた。着ている服も
真っ黒で、奇怪なものだった。
彼を「魔物」といい逃げ出した村の男たちの形相をツナは思い出した。
もしかしたら彼が魔物で、連れて帰ったツナの命を
食べてしまうつもりだったとしても・・
――それでもいい。
と、ツナは思った。もっと怖いものはたくさんあった。
この森で彼だけが・・ツナに優しかった。
ツナはぎゅっ、と少年の手を握った。彼は驚いた様子でツナを
見るとやがて・・頷いた。
――ずいぶん奥へ行くんだな・・
少年に手を引かれながら、ツナは代わり映えのしない木々を
見送った。もう何里歩いたのか見当がつかない。
日が落ちた森には徐々に闇が広がり、暗がりでいつもの鳥が
鳴いている。少年はツナの手を引いたまま、ずんずんと森深くへ
分け入っていく。
なかなか会えなかったはずだ、とツナは思った。こんな奥深くで
暮らしているのなら、彼がツナと遭遇する確率はかなり低いだろう。
彼があの小川に行ったのは、ただの偶然かもしれなかった。その
奇跡のような確率で、ツナは彼に救われたことになる。
「ここが・・俺の家です」
少年の声に頭を上げたツナは、林道の先を見て絶句した。
二人の前にあるのは、大きな鉄の門とその後ろに聳え立つ
中世の居城だった。