[ 原石 ]




 最後の包帯が解けると、きりりと引き締まった筋肉があらわに
なった。窓から差す陽が褐色のそれをより、健康的に見せている。
ボディガードを引き連れて病院の裏口を出入りするのも今日で最後
だった。それでも何事においても控えめな彼を慮って、ツナはひとりで
病室のドアをノックした。すでに飾る場所をなくした、花束を伴って。


「世話になった」
 ぱんぱん、と腕を叩いてランチアは礼を言った。ぶらっきぼうな物言いだが
根は繊細でファミリー思いの優しい男だった。
「これから・・どうするつもりなんですか?」
 一応ではあるがツナは尋ねた。自分の望まない答えが用意されていることを
知りながら――それでもあえて。彼を、諦めるために。
「墓参りだな。随分・・遠回りをした」
 ツナは頷いた。彼に恋をするまでも随分、無駄な血を流した気がする。
そしてこの思いは成就しない。



「もしよかったら、これを・・」
「すまんな」
 ツナから花束を受け取ると、ランチアは清楚な白い花弁の香を嗅いだ。
カラーにかすみ草を交えたそれは、シンプルだが気品の高いものだった。
 ランチアは相好を崩す。
「・・一番下の弟分が、好きだった花だ」
 そうですか、とツナも微笑んだ。彼の望みを期せず叶えることが出来て
救われた気がした。
「じゃあ――俺はこれで」
 失礼します、とツナは頭を下げて踵を返した。すぐそこで鬼のようなボディガードと
心配症の右腕が待っている。彼と別れを惜しむ時間はもう、無い。
「・・ボンゴレ」
ドアノブに手をかけたツナに、ランチアが声をかけた。振り向くことは出来ないが
立ち止まる猶予はあった。



「ありがとう。お前に出会えてよかった」



 何度か首を縦に振ると、ツナは部屋から退出した。これが最後の会話に
なるだろう。ずるずるとドアにもたれながらツナは腰を下ろした。手を伸ばせば
入る距離にいたのに掴めなかった、原石のような男。


 荒削りの優しいひとの、最後の家族になりたかった。