チーズと初恋
――京子ちゃんがね、北海道行ってきたんだって。
鞄の中から出てきたのは淡い黄色の箱だった。
「じゅうだいめー、これどうされたんですか」
今だ小さいままの獄寺君が駆け寄る。
三歳児になった彼はいつも、黄色いひよこの
ついた大きなスリッパを履いていて。
走り出すとぱたぱたと小気味よい音がする。
あ・・獄寺君だ、と思う。
「貰ったんだよ。お土産に」
一緒に食べる?と聞かれて獄寺君は「はい!」と
小さな首を元気良く振った。その元気のよさに、つられて
笑ってしまう。
「カマンベールチーズっていうんだ。・・変わった味だね」
獄寺君が食べられるように、と一口サイズにチーズを
千切ると、彼はそれをこの世で一番美味しいもののように
笑顔を浮かべて咀嚼した。
おやつはいつも、彼と半分こだった。
「元はフランスで作られたチーズなんですよ」
「へぇ・・物知りだね、獄寺君」
そんなこともないです・・と小さな右腕は頬を赤らめる。
「でも、ゴルゴンゾーラチーズもお勧めです」
「ゴルゴンゾーラ?怖そうな名前だね」
「ワインにもよく合います」
「ワインって・・」
俺、未成年だし、獄寺君は結局三歳のままだし・・
なんだか――変な感じがした。
――獄寺君も・・大きくなったらお酒飲んだり、するのかな?
「・・十代目?」
「――なんでも、ない」
俺は口元にチーズをつけた獄寺君を抱き上げるとその
丸く膨らんだ頬にキスをした。滑らかな乳製品の味。
甘酸っぱい匂い・・
どうして子供ってこんなに温かいのかな?
「獄寺君、チーズついてる・・」
「――じゅ、十代目・・!」
獄寺君は真っ赤になってしまった。俺はときどき彼が本当は
同い年であることを忘れてしまう。子ども扱いを嫌がる彼の髪を
くしゃくしゃにしたり、思わず抱き上げたり。
――このままの獄寺君も大好きだよ?
なんて言ったら、たぶんもう一緒に暮らせなくなってしまう
から彼には内緒だ。
零れ落ちそうな頬を赤らめた彼を抱きしめたら、小さな手のひらから
空になったチーズの箱がぽとりと床に落下した。
彼は困っているだろうけど、離すつもりなんて毛頭ない。
――だってしょうがないよね?
・・こんなに、可愛いんだもん!
(素敵な差し入れを下さったとき様へ、愛をこめて)