獄寺君は甘えん坊なんだ。

いつも、いつも
10代目、10代目ってうるさいのに
ちょっと注意するとすぐしゅんとなって
尻尾がたれた犬みたいになって
探すと公園にいて
「もうイタリアに帰ろうかな・・」って
言ってる。

もう、獄寺君、ほんとしっかりしてよ
そんなんじゃ俺・・



『 その日知った彼のもうひとつの 』


 喧嘩の内容なんて、たかがしれてる。
掃除をさぼったとか、屋上でタバコを吸ってたとか
(何故か先生に怒られるのは俺)
山本に絡んだとか。
(彼はいつも温和に切り抜けてくれるから二人の
喧嘩にはならない)
 だけど。

「もう!獄寺君・・いいかげんにしてよ!」
 あまりの惨状に、堪忍袋の尾が切れた。

 部屋のドアを開けると、泣き叫ぶランボに
黒焦げになったイーピン、と・・のん気にお茶を
すすっているリボーン。
 壁はところどころ焼けただれてて、窓は半分
すっとんでる。

「隠したってだめだからね、子供相手に
ダイナマイト使ったでしょ!」
――それも俺のいない間に・・勝手に部屋に入り込んで。
 俺は力の限り怒って・・それから泣きたくなってきた。
いつまでこれが続くんだろう。
どうしたら彼を何とかできるのだろう。

それで・・つい俺は、言ってはいけない台詞を
言ってしまった。


「獄寺君なんて嫌い!大っきらい!!」


 それからは・・もっと悲惨だった。
生気の抜けた獄寺君は微動だにせず、
(俺はほかっておいた)
 まずはランボをなだめ、イーピンを手当てし
獄寺君が手配したらしい修理業者が
テキパキと壁や窓を直すのを呆然と
見ていたら、気がつくと日が落ちていた。

――獄寺君が・・いない。

 公園にも、学校にも、自宅にもいない。
彼のいそうなところなんて俺には他に見当が
つかない。
 なんだか急に心配になって、街中歩いたけど
それでも彼は見つからなくって・・
俺は結局自宅に戻った。

 俺が玄関先で立ち尽くす獄寺君と再会したのは
捜索から二時間後。あたりはとっぷり暮れていた。


「すいませんでした!!」
 俺の顔を見るなり、ほぼ直角におじぎをして
詫びる彼の顔は凄惨だった。眼は落ち窪み
張れ上がり、頬はこけ、顔色は真っ青。
――この世の終わりみたいな顔だった。

「・・獄寺君、入りなよ」
 あんまり気の毒になって、俺は彼を
新しくなった部屋に呼んだ。
 向かい合って座ると、沈黙が重い。
――俺は思い切って、獄寺君の真横に
座った。

「ごめんね・・俺も、さっきは言いすぎた」
 うつむいたまま、彼は答えない。
「・・嫌いなんて、嘘だよ」
 顔を見ないでなら、これくらい言える。


「・・ほんとですか!!」


 勢いよく顔を上げた獄寺君と、眼が合う。
隣近くに座りすぎたかもしれない。
「・・う、うん」
「よかった・・」
 と、彼は俺にもたれかかった。後ろにベッドが
あったからよかったものの、ちょっと重くて
支えきれない。
「俺もうほんとにだめかと・・」
――獄寺君、ちゃんと反省してる?

「10代目、もう怒ってませんよね」
 うん、と俺は頷く。
――そんな気力も失せたよ。
「俺のこと・・嫌いじゃないんですよね」
 う、うんと俺は言う。
――・・そっちにショックを受けてたの?


 獄寺君もうそろそろ起きなよ、と
俺が言いかけたときだった。
 彼の両手がするすると伸びてきて、
俺の腰を掴んだ。
 ちょっとびっくりしたけど、獄寺君は
動かない。


――獄寺君、泣いてるの・・?


 それから、何時間何分たったのか、
短くも長くもなかった。
 ひとしきり、岩のように獄寺君と
くっついてた。
――彼の気が・・済むまで。



 それから仲直りしたかと思えば
俺と彼の口論は再発した。
 どうして二人を巻き込んで爆薬を
着火するに至ったのか。
 その経緯が問題だった。


「10代目のベッドにふたりして寝てたから」


 さすがの俺も絶句して、全身の力が
抜けたが、彼の言い分を聞いてから
雷をひとつ落とした。

 でも、ひとつだけ気がついたことがある。
それは・・獄寺君が泣き虫で、おまけに
甘え上手だってこと。
 そして俺が・・実は彼には敵わないんじゃないかと
思い始めていること。


――それは、今日初めて知った 彼のもうひとつの・・強み。


<終わり>