[ 影を飼う ]
お忍びでやってきたあるボスは、責任者の顔を見るなり茶色の眼を
細めた。
「・・まだ裏マフィアランドの責任者やってるんだ」
「随分な言い草だな、コラ」
「君に会えるとは思わなかったからね」
ボンゴレは男に馬乗りになると、機嫌を損ねた唇にそっと己のそれを
重ねた。あからさまなご機嫌取りがまんざらでもないのは、自分の上にいる
男がめっぽう美人で儚かったからだ。これが罠だと知っていても。
「――ここにくれば、また会える?」
ツナはコロネロの首元のファスナーを下ろしながら尋ねた。会いにきたのか
愛を重ねに来たのか分からない。いつまでも出世しない男を茶化しに来たかの
かも――
「さぁな。俺の知ることじゃない」
――気まぐれはお互い様だ、コラ
そっぽを向かれてツナは微笑んだ。簡単に手に入っては落とす愉しみも
味わえない、猫のような男。だから、じゃれ合いたくなるのだと。
「じゃあ君が会いにきても・・部屋に入れてあげない」
コロネロはまっすぐにツナを見つめた。会いに行く――あの嫉妬深い
家庭教師の根城へ?命がいくつあっても足りやしない、会う前にサイレンサー
付きの銃で抹殺されるのがオチだ。
男の思巡を読んだのか、ツナは微笑んでその耳に口付けた。耳たぶを甘く噛んで
頬を一舐めする――子猫がミルクを飲むように。
薄くらい部屋でも光る金色の髪、空のない部屋でも雲を映しそうな蒼い眼。
飼い慣らしてはおもしろくない。この腕を、すり抜けてくれなければ。
「・・こんな真っ暗なところにいると、日に焼けないよ・・?」
服の下の素肌に突き上げられてツナが息を吐くと
「――日陰の方が性分に合うんだよ」
彼の首筋に噛み付いた男が、舌を離して囁いた。
肌で感じた肉の塊は焼け付くくらいに熱かったのに、自分をかき立てる蒼い眼は
絶頂を感じるときさえ――影のように冷えていた。