体の相性ってあると思うんだ。
――好きや嫌い、を超越してしまうような。
鍵穴にぴったりはまってしまうと抜けだせない。

 それがどんなに非生産的で、利己的で意味の無い
魂の種をただ散らすだけの行為でも。




[ 嫉妬 ]




「んっ、獄寺君・・何するの・・っ」
 ほどいたネクタイでいきなり俺の両手首を
縛った彼は、その結び目をベッドの柵にかけた。
 束ねた両腕が耳につくくらい持ち上がって
窮屈な姿勢のまま俺は、両足を曲げたり伸ばしたりした。
 無駄な抵抗とは分かっていたけれども。


「こうしないと、10代目逃げるでしょう?」
 己のしたことに対して、微塵の反省もない言葉を
彼は俺に投げかけた。見下ろす蒼い瞳を、僅かに
曇らせながら。


「――逃げない・・よっ」
 俺は上体を捻って、彼に抗議した。俺の抵抗を
無視して、彼は淡々とネクタイをほどきシャツの
ボタンを上から順にはずしていく。白いランニングの
シャツを胸元までたくし上げると、彼は僅かに赤く
色づいたそこを、指先で押しつぶした。
「あ・・っん、は・・ぁっ・・!」


  喉から抜ける声がソプラノのそれのように
高くて、俺は思わず頸を曲げ彼の仕草を見ない
ようにした。
 彼は俺に跨り、両足の動きを封じると執拗に
そこを押したり、擦ったりしながらやわやわと色
づく反応を、まるで楽しむかのように見つめている。



「10代目はほんと・・ここいじられるの好きですね」



 俺は全身の血液が一気に頭に上りそうになった。

 彼は茹で上がった俺の顔を見て、満足そうに微笑むと
胸元を撫で回していた右手を、いきなり両太腿の間に
差し入れた。


「あっ・・!やだっ、やめてよ!獄寺君」


 胸元への愛撫だけで、しっかり臨戦態勢に
なってしまったそこは、先端から僅かに液を
零し下着を湿らせていた。


「もうこんなにして・・10代目はほんと悪い人ですね」


 耳元で囁かれて、ざわついた腰が落ち着かない。
悪いのは獄寺君だよ!とどうしても叫びたかった
けれど。喉を抜けるのは、思わす口を塞ぎたくなる
ような――くぐもった吐息ばかり。


「どうして欲しいですか?」
 先走りの液が光る俺の先端をむき出しに
すると、彼はそれを人差し指でなぞり煽る
ように塗りたくった。
 なぞる様な彼の指の動きに、堪らなくなった
俺は腰を捻って力の限り叫んだ。



「もういやだ、やめて!こんなの嫌だよ、獄寺君!」



 体なんて何度も繋いだ。俺の部屋で、彼のベッドで
誰もいない教室で。
 お互いの気持ちのいいところなんて知ってる。
どこをどう繋ぎ合わせれば、一時だけでも
一つになれるのかも。


 俺は彼が好きで、彼も俺が好きだ。男同士なんて
ことは最初から念頭になかった。俺は、彼に堕ちていた。


 君から離れられなくなっているのは自明のことだったんだ。



「・・10代目が悪いんですよ」



 涙で霞んだ視界の向こうの青銅色の眼は、ほんの
少し濡れているように見えた。
 灰色の髪が、カーテンから洩れる清らかな風に揺れている。

 攻められているのは俺で、責めているのは俺のはずなのに。
下がった彼の細い眉毛は贖罪を、俺に請いている。


「10代目が――俺以外のものに、目を向けるから・・」


 どこでそんな誤解をさせてしまったのか、彼の思考回路
だけは計り知れない俺は、どうしてもその現場が思い出せない。
 いつもの通り登校して、一緒にご飯を食べて帰ってきた
それだけだったのに!



「そんな――見てないよ。君しか、見てない」



 必死だったが、釈明ではなく真実だった。
君以外の存在しない生活のどこにそんな嫉妬を
浮かべる出来事が存在するのだろう。



「証明してくださりますか?」
「どうすれば信じてくれるの?」



 涙目の駆け引きの軍配は、どちらに上がったか。
近づいた彼の唇が、息を吐いた俺のそれを閉ざした。
 もう何もいう必要はないと言う証だった。

 掻い摘むようにキスをして、俺を見つめた彼の
目じりは下がっていた。いつも、俺に向ける笑顔
だった。


 それから彼は俺を縛っていた戒めをはずし、
立ち上がったままのそれをゆっくり口に含んで
愛撫した。


 普段通りに愛し合うことさえ不器用な彼と
俺のある日の午後の出来事だった。




(一万ヒット部屋より再録)