獄寺君に告白された、と答えたツナの声の
震えを俺は鮮明に覚えている。その後脳裏を
襲った、耐え難い痛みと、身を切るような衝撃も。


「へぇー、そうなんだ。勇気あるなー・・あいつ」


・・まぁ端から見れば、ばればれだったし?
ツナも獄寺のあからさまな愛情表現を容認して
――半ば、黙認しているようだったから。


 何とか余裕を見せたくて、顔をタオルで拭いたり
手をうちわ代わりに、何度も仰いで見たりしたけれど。
 浮かぶものは余裕ばかりか、変にゆっくりと流れる汗ばかりで。
――正直、俺は焦っていた。



 本当は、妙にかしこまった顔をして二人が体育館の
壁に立っていたときから、ずっと嫌な予感はしていた。
ツナはがちがちに緊張していたし、獄寺は思いつめた
顔をしていた。
 だから終業式が終わって、解散の列に加わらない二人を見たとき
俺を包み込んだのは・・後悔というどす黒い念だった。
 補習でも何でも理由をつけて、ツナを引っ張りだしてしまえば
よかった。
自主トレ、と理由づけて未練がましく体育館の周りを
ランニングしながら俺は二人が出てくるのをただ・・待つしかなかった。



 しばらくして一人で出てきたツナの顔色は真っ青だった。
――獄寺に告白されたんだ、と俺は直感した。
夏休みを目前にした人気のない体育館でなんて
あまりにもベタな感じもしたけれど。
――獄寺は、そういう男だった。



 ずっとグラウンドから体育館を眺めていたことを
悟られたくなくて、まるで通りかかったようなふりを
してツナを部室まで連れて来たけれど。
 その後ツナの口から洩れた言葉に、俺は絶句した。


『獄寺君に告白されたんだ・・付き合ってくれって・・
言われた』


――それで、ツナはなんて答えたんだ?
 その一言が、喉もとに引っかかってどうしても出てこない。
俺の惨めなプライドが――その一言を言わせない。



 俺は、振られたくなかったんだ。




「付き合えばいいんじゃねーの?ツナも、獄寺のこと
好きなんだろ?」


 胸を縛り付ける気持ちとは180度異なる台詞を
俺は無理矢理、吐いた。
 そんな気持ちは微塵もなかったし・・できることなら
その場でツナに――告白したかった。




 俺だって、あいつがイタリアから来る前からずっと
ツナのこと見てたし――付き合いたいと思ってた。

 ツナが俺を知るより早く、俺はツナに眼をつけてたし
ずっと接点が欲しかった。

 ツナは皆が言うような・・ダメツナなんかじゃ全然ない。

――俺だってずっと、ツナのこと・・




 好きだった、と言ってもそれはツナを困惑させるだけだろう。
ツナは優しいから、どちらかを選ぶことなんてきっと・・できない。
何より最初に告白してきた獄寺に要らない気遣いを
寄せるのではないか。
 それなら、――どうせ断られるだけの思いならいっそ。



 無かったことにしてしまえばいい、と俺は思った。



 本当は、ツナに振られることよりも・・
断られれば獄寺に負けたことになる――それが一番、恐かった。