[ love story - a day in the evening - ]



 校庭を颯爽と横切る彼を見つけて
思わずフェンスに手をかけた。

 その周囲には彼のファンクラブの女の子
だろうか・・群れをなして彼を見守っている
一団があった。
 タオルや・・差し入れのスポーツ
ドリンクを持っている子もいる。
 どの子も彼を見つめる視線は
真剣で・・
――改めて、山本は人気があるんだな、と思った。

 男の俺から見ても、山本は背が高くて
かっこいいし、気さくで責任感もあって
みんなをまとめることもできる、いわば
憧れの人間だった。
スポーツ万能で、成績は悪いけど
それは勉強する時間がないだけだから
本当はすごく頭もいいし・・いいとこ無しの
俺とはかけ離れた、存在で。

 ひょんなことから俺と山本は友達に
なり、最近はお互いの家で宿題を
するくらい仲良くなった。
 
正直、俺には優越感もあった。

俺なんかとは縁がない人間・・と
思っていた山本と話せる、冗談も言える
っていうのは、ただ見ていただけより
ずっと心地よかった。
 クラスで一番の人気者、学校の有名人と
仲良くなれるなんて。俺はリボーンに
ちょっとだけ感謝したくらいだ。

 でも・・実際にこれだけ多くの
ひとが山本のこと好きなんだなって思うと
何故だか分からないけど胸がひどく痛んだ。

・・俺なんかが、山本を独占してちゃ
だめだよね。
 そう思うと悲しくなったけど、やっぱり
その通り、と思う自分もいて心の中は
ごちゃごちゃになっていた・・

――俺・・いったい、どうしちゃったのかな・・

 そう思いながら彼を見つめていたら
グラウンドのコーナーを曲がった山本と
眼が合った。
・・そう思ったのは俺だけかもしれないけども。

 山本はそのまま方向を変えず、一直線に
グラウンドを横切る。
 ファンの子の集団もざわめいた。
――まさか・・俺に向かってきてるの!?



「ツナ、今帰り?」
 息を切らせて走ってきた山本に
俺はしばらく返す台詞が浮かばなかった。

「あ・・うん。ごめんね。邪魔するつもりは
なかったんだけど」
 必死に弁明を試みたものの、遠くの女の子達の
視線が痛い。

「じゃ、一緒に帰ろ」
「へ?」
 拍子抜けして山本を見上げると彼は
シャツで汗をぬぐっていた。
「い、今山本・・ランニングしてたんじゃ」
「あーいいよ。ツナがいるなら帰る」
「え?あ・・野球は?」
 あんこうの様に口をぱくぱくさせながら
俺が尋ねると・・山本はいたずらっぽく笑って
こう答えた。



「別にいーの。俺は野球より・・ ツナのこと、愛しちゃってるから!」



 それから自分に何が起こったかは
正直あまり思い出したくはないんだ。
ただそれきり、溢れるように泣き出して
しまった俺を山本が慌てて宥め、落ち着いてから
二人手をつないで帰ったっていうのが、ことの顛末。

 それは、夕日に染まったグラウンドの片隅で咲いた・・
――小さな、恋話。



<終わり>
(1000hit記念部屋より再録)