20 years later













ああ、またやった、と綱吉は思った。
 生涯の標的(だと、ランボは勝手に思っている)であるリボーンに奇襲を仕掛け
そのまま返り討ちにされる――学校から帰った沢田家のリビングでは、ランボが
炭のようになっているのは日常茶飯事だった。
その彼が、滝のように泣きながら十年バズーカを取り出すことも。
「ランボさんは強いんだからな」
 台詞が既に負け犬の遠吠えである。リボーンは鼻からちょうちんを膨らませて
彼を完全に無視していた。それもまた、よくある光景だった。
 バズーカが直撃し、やれやれと十年後の彼が出てくる――その彼の力をもって
してもリボーンに敵うはずはなく、結局ツナは大きな子供を慰めることになるのだ
――そう、ツナは思っていたが。
「・・おや・・また会えるとは・・」
 もくもくと沸き立った白い煙の中から現れたのは、牛柄のシャツの男ではなく
皮のパーカーを羽織った黒い天然パーマの男だった。
レヴィ・ア・タンとの戦いで活躍した、二十年後のランボである。
「・・ランボ!」
「――お久しぶりです、ボンゴレ・・」

 ランボはうやうやしくひざまずき、ツナの手の甲を取った。
王子のような一連の動きにツナが赤面すると、いつの間に眼を覚ましたのか
ハンモックで寝ていたはずのリボーンが明かに舌うちを落とした。
 二十年後の互いの距離を思えば、今など十分触れるには容易いのだ。
「ボンゴレの手は――細いんですね」
「ちょっ、ランボ――」
 彼の息が、ツナの頬にかかった瞬間、リボーンの持っていた拳銃が
無機質な音を立てて響いた。ランボの耳をかすった銃弾は明らかに彼の動きをけん制している。
「リボーン!いくらなんでも撃つ事は無いだろ」
「・・格下に堂々と手ぇ握らせてんじゃねーよ」
「格下って・・ランボはボンゴレの一員に・・」
 ねぇ、とツナが彼に問いかけると黒髪の男は薔薇が花開くように笑った。
儚いほどの美しさに――美形など見慣れているはずのツナも絶句する。
「・・未来は、わかりませんよ」
「え?」
「――分からないから・・面白いんです」

 その瞬間、白い煙がもくもくと彼を覆った。ツナがその名を呼ぶより早く、
彼の腕の中にはすやすやと寝息を立てたランボが横になっていた。
口の周りにいっぱい、チョコレートをつけながら。
――未来で・・チョコでも食べてきたのかな?
 その想像は微笑ましくて、ツナは苦笑した。
――こいつが・・あんなかっこいい人になっちゃうんだもんな。

 だから、未来は分からないのかもしれない。

 腕の中で寝返りをうつ柔らかくて温かいその体を
抱きかかえながらツナは「おかえりなさい」と言った。
 チョコレートにまみれた口元から、自分を呼ぶ声が
零れる。

「・・本当は・・ランボさんは・・強いんだぞ・・ツナ」

――知ってるよ。

 返事の代わりに微笑んで、隣の部屋に布団を敷きに行く。
小さなヒットマンの強がりを聞いていたらふいに
――二十年後の彼に会うのが楽しみになった。

 二十年後、彼はどこで何をしているのだろう。
 その時も、俺のそばにいてくれる?
 それとも――

 強くなんてならなくていいからいつだって俺を、

 こうして――温めて欲しいんだ。