Manchi La
Manchi La
夢でもいい。どうかもう一度会えますように。
そう祈り続けることで生きることを選択した俺は。
貴方がいなければ息も出来ないことに、
貴方を失くして気が付きました。
Prologue
その夢は切なくも温かだった。
机の端に置かれた電話が突然鳴り、けたたましい
ベルの音に俺は飛び起きた。
こんな早朝に電話をしてくるような人物の思い当たりは無い。
俺はもしもし、とだけ答えた。
返事は無い。
かわりに微かな潮騒が受話器の向こうで響いている。
寄せては返す細波に耳をすませて俺は尋ねる。
「・・・――誰?」
受話器はがちゃん、と無機質な音を立てて下り、
レム睡眠のシアターは終わりを告げる。
眼を覚まして俺は、それがただの夢であったことを知る。
Reunion
出会った頃の貴方を俺は今でも鮮明に思い出せる。
「リボーン、本当にこんなの着るの?」
支給された灰色のスーツに眼を白黒させる。
「こんな目立つスーツ着たことないよ、と言うと
「お前は半人前だからな。白でも黒でもない灰色なんだ」とリボーンは言い
「さっさと着ろ。額に風穴をぶち開けられたいか」と釘を刺した。
――ったく・・血の気が多いんだから。
彼に付いてミラノに来て、リボーンが本当の意味で
ヒットマンらしくなった、と俺は思っている。
灰色のスーツに袖を通すと、リボーンは俺を
一瞥して「馬子にも衣装だな」と口角を上げた。
――絶対馬鹿にしてるよなぁ。
言い返すのも不毛なので黙っていると、リボーンは
「これから特別授業を受けてもらうからな」と言った。
「特別講師って、ディーノさん・・なんですか・・?」
Vacation
「俺も、年の離れた弟が出来たみたいで嬉しいよ」
「・・・」
――あれ・・今何か・・ずきん、とした・・。
何故胸の奥が痛んだのか分からず、俺は晴れやかな笑みを
浮かべるディーノさんの横顔をとちらりと眺めた。
――気のせい・・だよね?
ミラノの乾いた、青い空の下に立つと彼の美貌が引き立つようだ。
もの憂げな蒼い瞳に金色の髪、すらりと伸びた手足、整った顔立ち
――モデルか役者のような風貌を俺は、十年前から知っている。
その美しさの中に強さと、優しさを備えていることも。
「ツナ・・次はドォウモに行こうか?」
「は、はい・・!」
Lesson
「脅かせてごめんな。でも・・獄寺に山本、笹川に雲雀もいる。
リボーンだってついてる。大丈夫だ」
心配しなくていい、と彼は言った。
彼の微笑みに安堵しながらも、俺は別の胸騒ぎを覚えていた。
――ディーノさんは、ボンゴレの人間じゃないんだ。
俺が正式に「十代目」を継ぐ日――ディーノさんは隣に居ない。
それは自明のことだった――なのにどうして、こんなに泣きたく
なるくらい胸が苦しいのだろう。
――この授業が終わったら・・ディーノさん、キャバッローネに戻るんだ。
そう思うと何かが胸の奥を締め付ける。
俺は懸念を振り払うように首を振った。
Separation
一報が届いたのは次の日の正午だった。
「裏切り者はキャバッローネ側だったようだな」
「・・嘘・・だ」
「――ツナ」
「嘘、絶対嘘だ・・ディーノさんじゃない、ディーノさんは・・!」
今日の夜、内緒で執務室のドアをノックして。
解禁されたばかりのボジョレ・ヌーボーで祝杯を上げる――
「でもあいつがタクシーに乗ったのは事実だ。目撃情報もある」
マフィアのボスが流しのタクシーに乗るのは軽率だったと思うがな、と
リボーンは腑に落ちない表情で言った。
俺の背筋を、今日の朝感じた悪寒が駆け下りていく。
「・・君は、知ってたんだね?」
「ああ」
「・・それで俺をボンゴレに?」
「・・そうだ」
リボーンの唇はわずかに痙攣し、そして何も言わなくなった。
俺はその震えが何を意味するか知っていた。
「――あのね、獄寺君」
「はい・・?」
「もし・・俺が居なくなったら・・君は、どうする?」
それがたとえささやかな望みでも。
明日、希望の無い朝が訪れたとしても。
――貴方の声を聞くことが出来るなら俺は、どちらでもいいんです。
(Manchi La より、一部省略・改変)
(サンプルというより直接的なネタばれを避けたダイジェスト版です。
「永遠の別れ」や「身を切るような切なさ」に耐えられる方は
是非、本編をどうぞ・・!)