宿題が終わると、ディーノは教科書を閉じ
ツナが持ってきたお茶をごくごくと飲んだ。
「これで全部か?」
うん、とツナは頷いて彼を見上げる。
――ディーノさんのおかげで・・ほんとすぐ終わっちゃったな。
宿題が片付いたのは嬉しいが、彼といる合目的な理由が
なくなった以上、イタリア闇社会の重要人物を自宅に留めて
おくことはできない。
つのる寂寥感をこらえ、ツナは机の上を片付け始めた。
「ありがとう、ディーノさん」
笑顔で感謝の気持ちを伝えてから、下に控えているで
あろう部下の人たちを呼んでこようと
ツナが立ち上がったときだった。
「もうちょっと一緒にいよーぜ、ツナ」
ふいに右手首をディーノに掴まれ、ツナは
その場に座り直す。
「せっかくここまで来たんだからさ」
優しい台詞をうっとりするような笑顔で言われて
しまい、ツナは心臓が跳ね上がりそうになった。
「あ、で・・でも、下に部下の人が・・」
「今日は帰らねぇって言ってある」
「え?」
ディーノはツナの右手を離すと、悪戯っぽく微笑んだ。
「俺もずっとツナに会いたかったんだぜ?」
「ディーノさん・・」
答えるツナの瞳も彼につられて輝いていたが、
彼はそのまま身を乗り出して、ツナに顔を近づける。
睫毛の長さも、その息の熱も伝わる程の至近距離で
ツナは眼の前の美貌にのぼせ上がっていた。
「ツナはさ、――俺のこと好き?」
「え・・あ、好きです」
端から見れば、十分な誘導尋問だったが、
ツナは質問の意味も考えず、オウム返しに答えた。
「俺も、ツナのこと好き」
眼の前で弾けた笑顔に、ツナは感激のあまり
自分の置かれた状況を忘れてしまいそうになった。
憧れの人と、自分の部屋で二人きり。
しかも一人は、今夜は帰らないと言い
もう一人は相手の美貌により、完全に思考回路が麻痺していた。
胸がいっぱいで何も言えない状態のツナの肩を
ディーノはとん、と押す。
背中に柔らかい布団の感触が広がり、何か言いかけたツナを
悠然とした微笑をたたえた唇が封じる。
宿題を理由にしたのは、自分だけではないことにツナが気づいたのは
己の口中に、意思を持って動く熱い舌の気配を感じ取ったときだった。