「なぁ・・ツナ、――初めてだったのか?」
 ディーノの左手はツナが出した欲で濡れていた。
彼は左手首をつたう液体を舐めとると、そのまま
何か言いたげだったツナの口を塞いだ。


 彼の舌がツナのそれと交わり、口腔内に苦いぬめりが
広がるとツナは顔をしかめその熱い塊を拒絶する。


 ディーノの組み敷かれた体勢のまま、彼の左手に
欲望を吐き出してしまったツナは、あまりのショックと
衝撃に泣き出しそうになっていた。
 自分で性器などいじったこともなく、まして
射精することさえツナには初めてだった。
それを大好きな憧れの人に見られたばかりか、彼の
手まで汚してしまった。


――もう、嫌だ・・。
 悪い夢だ、と思いたかった。眼が覚めたらきっと
いつもの優しいディーノさんがここにいて、二人で
紅茶を飲んで・・
 ツナは羞恥と後悔のあまり、甘い想像の中に
逃避しそうになった――が、ディーノの舌が口腔内をまさぐる動きに
無理やり現実に引き戻される。

 ツナが眼を開けると、憂いを含んだ蒼い瞳がじっと
自分を見つめていた。その許しを請うような視線に
ツナはあっ・・と小さく口を開ける。
「ツナ、ごめんな・・怖かったか?」
 ディーノの淋しげな眼に、ツナは・・・うん、と頷いた。
恐怖よりも羞恥の方が格段に勝っていたものの、彼の悄然とした表情に
先ほどの泣きそうな気持ちも薄らいでいった。


「俺じゃ・・嫌だったか?」
 彼じゃなくても、正直こんなところ誰にも見せたくない。
ツナはどう答えてよいのか分からず・・紺碧の瞳を見つめた。
 どんな理由であれ、彼を悲しませたくはなかった。

「・・嫌じゃ、ないです・・ディーノさんなら」
 しばらく経ってから、ツナは眼を伏せ途切れ途切れに
答えた。彼に対して嫌だと感じたことはひとつもなかった。
 ただ・・恥ずかしくて、情けなくて――今すぐ逃げ出したい気分と
彼と離れたくない気持ちがツナの中で膨れ上がる。
 ツナは両者を天秤にかけたが、圧倒的に後者の方が重く
ツナの気持ちは一瞬にして彼に傾いた。


 ツナの答えに、ディーノは咲き誇る薔薇よりも優美な
笑顔を浮かべた。自分の言葉で鮮やかに変わった
その表情に、先ほどのショックも吹き飛んだツナは
ただ彼に見惚れている。
 美しい、という言葉は彼のためにあるといっても
過言ではなかった。

 ディーノはツナの名を呼ぶと、その耳に唇を
近づけ何事かを囁いた。ツナはしばらく考えてから
頬を朱に染めると――こくん、と小さく頷いた。