[ 肉の檻 ]
誰にも言わないから安心してくださいね、と
男は笑った。真っ黒い左目に笑みを、不思議な色の
右目に、恐怖を載せて。
「・・君だってこんなところ、大切なご友人に見られたら
困るのでしょう?」
お人よしで友達思いなところは把握済み。押しに弱いところも
親切にされることに慣れていないことも――盛り込み済み。
あらゆる手練手管で落としたら、ボンゴレを手に入れたら
いつものように頸を絞めて、その辺に捨てておこうと思ったのに。
「どうして飽きないんでしょうね・・」
後から突き上げから、声にならない悲鳴が彼のためだけに
用意した部屋で響いた。
何でも欲しいものをあげると、最初に約束した。
二人で寝るには十分な大きさのベッド、鉄格子の付いた日当たりのいい窓。
一日中つけっぱなしのテレビ。新作のゲーム。
何でも食べたいものをつくってくれるコックとキッチン。
いつでも汗を流せる専用のプールと大理石で出来た天然風呂
――日本人はお湯につかるのが好き、と聞いたからだ。
あとはそう、とっておきの家庭教師をつけてあげる、だから
僕のものになりませんか、と骸は言った。
ツナは、唇を噛んだまま頷いた。
悪魔と取引を交わしてしまったことさえ、知らずに。
それがこの戦争を終結させる唯一の術だったからだ。
逃げ出そうとしなければ、あんなに暴れなければ・・
もう少し優しく抱いてあげられるのだけれど――
骸は手錠のついた細い腕になぞるように舌を添わせた。
愛を囁くようになって何時間経ったのか分からない。
ただひとつ言えるのは――この部屋に連れ込んで一番最初に
壊したのは彼と、壁にかけてあった置時計だった、ということ。
口説き落として自分だけのものにするための舞台は
十分すぎるくらい整っているというのに。
肝心の役者がいつまでも舞台袖にいては、いつまでも開演できない。
――早く、降りてきなよ。
骸が弾けそうになっている少年の先端を掴むと
幾度となく果てた体が大きく仰け反った。
解放を希ったらこの目隠しを外して、極楽を見せてあげよう。
僕を愛していると頷いたらこの猿ぐつわを緩めて、ご褒美にキスをあげよう。
あとは主役が――降りてくるまで。
意地っ張りで優しい心がばらばらに壊れて、堕ちてくるまで。
飽きたらすぐに燃やしてしまうのに、今はただ壊したくて
仕方が無い。あの日森の中で自分を笑わせた兎を、肉の檻で
飼ってみたいとずっと願っていたのだから。
降りてきた先のカーテンコールまでは考えていない、再演のない愛。
――でも君は、ロングランヒットかも?
そう思うと何故か嬉しくて楽しくて、彼は手に入れた身体を犯しながら
くふふ、と笑った。
舞台に下りてきたら肌の上に薔薇の花弁を乗せて、湧き上がったばかりの
風呂でもう一度楽しもうと、思った。