[ Don't you need me? ]
食堂を出たツナが自室に戻ると、その男はソファーに腰掛け、
愛用の銃に弾丸を数発装填していた。その見事としかいいようのない
手さばきに、彼はかける言葉も忘れ見惚れている。
「何ほうけた顔してる」
リボーンは慣れた手つきで銃を懐にしまい、ツナを見上げた。
「・・やっぱりすごいなって思って」
殺し屋が銃に扱いなれてなくてどうする、と
12歳にも満たない少年は皮肉を言う。
「発射時の勢いで倒れるお前よりはましか」
「なっ・・」
確かにその通りで、ツナは言葉に詰まった。
「ちゃんと筋トレしてるのか。その細腕で
どうやって銃を支えるんだ」
ふいに彼に右腕を捕まれ、ツナはぎくっとした。
正直ツナに筋トレしている暇はないし、銃のトレーニングは
あっても実弾はまだ使ってはいなかった。
人間の形をした的だって、かすったことさえないのだ。
10代目の持つ銃は空砲が入っていて、いわば脅し目的に使われる
護身のためのものだった。
「べ、別に俺は・・銃なんて」
「使えなくてもいいってか。甘えるな」
ツナは続く言葉を失ってうなだれた。何もかも
リボーンの言うとおりだった。
人を傷つけるのが怖いのは、そうすることで自分自身をも
傷つけるのが怖いからだった。
リボーンは暗にツナのこころの弱さをついた。リスクを負う
度胸の無さを――ボンゴレ10代目としての自覚の薄さを。
「お前にだっていつかは、その手で引導を渡さないとならん
日がくる」
「引導・・って誰にだよ」
リボーンは真剣な眼をツナに向けた。その食い入るような視線に
ツナは後ずさりしそうになる。
「俺だ」
――え?と、ツナは問うようにリボーンを見下ろした。
「なんで俺が・・リボーンに」
「俺が必要無くなったら、だ。それを見極めるのも
ボスの務めだからな」
「な、何言って・・!」
自分が初めて銃を向ける相手がリボーンなんて、
そんな縁起でもない、とツナは思った。
「そんなこと絶対にない」
ツナはきっぱりと言った。そう言い切れる根拠は
何ひとつ無かったが。
リボーンは、拳を強く握り締めて断言したツナに
薄く笑みをこぼした。
「まだまだ子供だな・・」
自分より10歳も年下の少年にガキ呼ばわりされ
ツナは腹を立てた。
「そんな・・リボーンの方が」
俺より何倍も子供――と言いかけたツナの
腕をリボーンは急に引いた。その勢いでツナは
ソファーに頭から倒れこんだ。
「痛た・・何だよ」
ツナがふかふかのソファーにめり込んだ顔を
挙げると、嘲笑を滲ませたリボーンが眼の前にあった。
子供ながらも丹精で整った顔立ちと切れ長の眼
薄く笑みを零した唇・・生意気な、と形容するよりは
その圧倒的な存在感にツナは息を飲む。
「やっぱり、お前は・・可愛いよ」
相手は10歳も年下で、背は20cm以上
ツナよりも低く、体格もまだ幼さの残る少年
――なのに、ツナはそのまま顔を近づけてきた
リボーンに抵抗することさえできなかった。
確かめるように、軽くついばむキスをツナに
施すと、リボーンは満足そうに微笑んでツナから
唇を離した。
「俺が必要ないなら、早く言えよ」
そう言い彼はにやり、と笑ったがツナはソファーに
もたれたまま、金縛りにあったかのように固まってしまった。
リボーンが必要なんて、この先告げたら・・
次は何をされるのか――そう思うとツナは顔全体が
噴火しそうなくらい蒸気し、二の句が告げなかった。
<終わり>