[ Nervous Angel ]




くしゃくしゃになったシーツから
見え隠れする白くて細い足が、まるで
誘うように重なっている。
 後ろ髪を引かれる思いで白衣を着込むと
シャマルは「へそ出して寝るなよ、風邪引くぞ」
と言った。


「俺、もう子供じゃないよ」
「まだまだ俺から見たらガキだ」
 こっちの方は子供じゃないけどな、と
言いながらシャマルはシーツを捲った。
紅い印がまばらに刻まれた肢体が顕に
なる。

「あ、エッチ。ドクターのスケベ」
 身体を晒された少年は、うつぶせになると
気だるい身体を摩って抗議した。
「・・お前の身体に言われたくないね」
「――誰のせいで・・っ」

 シャマルの軽口に顔全体を朱に染め上げた
少年はふてくされてシーツを頭からかぶった。
 その幼稚、とも言える拒否に、シャマルは先ほどまで
真っ白なベッドで紡いだ睦言を疑いそうになった。


さっきまで自分の下で、どんな女も出さないような色っぽい声を
出していたのはほんとにこの少年なのだろうか?


 男は診ない、と公言していた自分がよもやその
男の身体を隅から隅まで知り尽くすことになるとは
思ってもみなかった。しかも自分とは倍も歳の離れた
東洋人のガキを。さらにそいつがイタリアでは一番の
マフィアのボスだっていうんだから、「事実は小説より
奇なり」だ。


 シャマルは小さくため息をついて、少々損ねたご機嫌を
直すべくシーツをゆっくりと捲った。
 白い布の下から現れた大きな茶色の瞳には、大粒の
涙が今にも零れ落ちそうなくらい溢れていて――
シャマルは思わず息を飲んだ。


「どうせまた・・他の女の人のところに
行くんでしょう?」


 涙より先に零れた我儘に、シャマルは天を仰いだ。
どんな小悪魔だって、ふてくされて居もしない女に嫉妬
なんてしない。
 どんな娼婦だって、帰り際にわざわざ熱を煽るような
ことはしない。


――お前を抱いた身体で・・他の女が抱けるか。


 締めたはずのネクタイを緩め、シャマルは少年の
瞼にキスをした。
 けして丈夫とはいえない身体を慮って、わざわざ帰ろう
としているところを引き止められれば、躊躇するつもりはない。


――どれだけ泣かせれば、お前しかいないって・・分かるんだ?


 唇を奪いながら、シャマルはふと考えたが、自分の下で
じたばたと無駄な抵抗を続ける少年を抱きしめると
もう一度、その甘い旋律を白い楽譜に描きたくなった。









(一万ヒット部屋より再録)