彼と寝たのは10代目、になった夜だった。
真っ暗で月のない夜だった。サイドランプは
消してもらったはずなのに、向かい合ったとき
彼の白い肌と闇の様な眼がぼうっと浮かび上がった。
 息を飲むほど美しかった。




[ night of light ]




「おかえり・・リボーン」
 寝返りを打ってから、枕を頬杖代わりにする。
彼が出かけるのは俺の意識が無い、深夜。
彼が戻るのは俺がまだ夢の中にいる、明け方。



 真夜中に、街路灯の無い街で彼が何をしているのか
俺は知らない。知ることさえ許されない。


 俺が知っているのは、仕事を終えた彼の
――崩れ落ちそうな、悲壮感。



 裏切り者を始末したのか。望まない引き金を
引いたのか――消す必要のない命を散らして
しまったのか。


 どんなに冷酷無比で、血の通わない人間と
揶揄されていても、俺といる時だけは彼は
血潮の熱い人間に戻る。初めて寝たとき、それ
を知った。


「――慰めてあげようか?」
 俺が起き上がると、彼はコートをソファーに
かけながらいった。


「・・十年早ぇよ。ガキはさっさと寝ろ」
「君よりは年寄りだから、朝早いんだ」


  ベッドに腰掛けて、足元に絡まったシーツを
手繰り寄せる。
 彼はジャケットを脱ぐと、漆黒のネクタイを
外しコートの上に重ねておいた。シャツのボタンを
はずす姿さえ、優雅だった。


 彼は俺が空けたベッドに横になると、俺の右腕を
引いた。――反動で俺は、彼の上に横たえる姿勢に
なる。
 パジャマの下から素肌を撫でられて、俺は小さく
声を上げた。


「体温だけはお子様だな」
「・・温めて欲しいの?」
「また寝不足になっても知らねぇぞ?」



「ここにきてからずっと・・不眠症だよ」



――いつも君を見送りたくて俺は眠れない。
君を出迎えたくて、俺にはずっと朝が来ない。


眠気と無用な心配は、真っ黒な靴が部屋に
たどり着く足音でかき消されてしまう。
 君はきっと知らないのだろう。何匹羊を
数えたって、夢でさえ会えない。だから
――手元のランプを消すのは、嫌いなんだ。




 ボンゴレ10代目の部屋にはいつも明かりが
ついている。それは彼が仕事熱心なわけでも、
敵の強襲を恐れているからでもない。


それは、彼がいつまでも続く夜を嫌うから。


 思い人をただ待つ夜を灯すのは、愛にも似た
ひと筋の光。
抑揚の無い炎はこらえようも無く、小さな胸を
焦がして。
互いの熱を明け渡しながら、狂おしい夜はただ更け
ゆく。



 別れの朝が来るまで。