[ one day in the morning ]



 彼とのつきあいはもう10年になるから
大概のことは知ってるつもりだった。
 特に彼が誰よりも忙しい、ということは。
でも・・

「リボーン!」
 その姿を見つけたとたん、慌てて彼のスーツの
端をつまんだ。この機会を逃すと、一週間会えない
ことだってある。


「だから何なんだ」
 当のリボーンは露骨に嫌そうな視線を
俺に向けた。しつこいって、眼が言ってる。

「せめてさ、一声くらいかけてよ。
・・本部に戻ってきたときくらいは」

 俺にはリボーンの動向を知る術はない。
 逆にリボーンは俺の行動について、逐一連絡を受け
把握しつくしている。
 だから彼はいつでも(会おうと思えば)会えるが
俺は望んでも彼には会えない。

 分かっていても、ちょっと不満だった。

「俺・・リボーンが何やってるのか
全然知らないし、知っちゃいけないってことも
あるって聞いてるけど・・会えるときは会いたいよ」

 君に心配なんて無用だって、分かってるけど。
でも――

「顔みるくらい、いいじゃん・・だって・・」
「何だ?」



「・・俺ばっかりリボーンのこと気になるのって
なんだか・・ずるい」



 俺の精一杯の自己主張に、リボーンは
「やれやれ」とため息をついた。

「頼むから、わがままも程ほどにしてくれ」

 なんで、と反論しかかった俺にリボーンは
悪戯っぽく笑った。


「仕事に支障が出る」

 
 その瞬間、何かとても柔らかいものが唇に触れて
俺は思わず飛び退った。
「・・!!」
 顔が見る見るうちに熱くなって・・おそらくは茹でタコ
みたいになった俺にリボーンはなおも追い討ちをかける。

「何だ?不服か?」
 
 お気に入りの玩具を見つけたような顔で
リボーンが近づいてくる・・後ろは壁
――逃げ場が、ない!
 
 俺は思わず目を瞑った。


「帰ってきたら、続きをしよう」


   耳元の笑みを含んだ声に、俺は恐る恐る目を
開けた。リボーンは腕を組んで笑っている。
 計られた――、と感じて俺はまた顔が
茹で上がった。


「――リボーンのばかっ!!」


 背を向けたまま、彼は小さく手を振った。
おおよそ11歳とは思えない、その出で立ちと振る舞いに
年上ながら見とれてしまう。
 きっといつになっても俺は追い越せない。追いつくこと
だってできない。
けれど・・


 大きく叫んでから、かすかな小声で俺は呟いた。
「・・うそだよ」
おそらくリボーンには聞こえなかっただろうけども。



――うそだよ、リボーン。今度は早く・・帰ってきてね。



<終わり>
(1000hit記念部屋より再録)