『 お仕置き 』
じっと見つめると自分の顔がヘルメットに映った。
フルフェイスのヘルメットを監獄にいながらも
離さないのは、彼の強いポリシーからだと囚人監査官が
ため息交じりに言った。
よほどの変わり者か、恥ずかしがりやなんだろう、と
前者だと思うよ、とツナは呟きながら手錠の鍵を
受け取った。湿っぽい牢屋にはあまり長居したくはない。
ただし聞き出さないと半殺しかお仕置きだ。
・・お仕置きだったらいいな。
そう思いながら鉄格子をノックすると、全身黒ずくめの
住人が「な、なんだ」と言った。
「何だって・・――」
こんなところにお茶を飲みに来たのかと思う?
ツナが尋ねるとヘルメットの男は
「ボンゴレが何の用だ」と言った。
息のこもった、けれども高い声だった。
「決まってるでしょ・・拷問」
ツナは立てかけてあったスツールに腰を下ろした。
十代目の意図を聞いたスカルは
「お、俺は吐かないぞ・・!爪剥がされても何も出せねーからな」
と息を強張らせた。威勢はいいが腰は引け、背中はしっかりと
土壁についていた。見っとも無いことこの上ない。
ツナは大げさにため息をついた。小心者のくせに本部に侵入しようと
するからすぐ、センサーに引っかかるのだ。絨毯に躓いて、自分から。
それでも立派なスパイとして彼は捕らえられた。アルコバレーノの一人と
してボンゴレに観光にくるわけでもないだろう。ちょうど暇を持て余して
いたツナは内部調査を言いつけられたのだった。
「スカルくらいならお前で十分だろ」
「・・リボーン少しは・・」
同じ出身なんだから高く見積もってあげれば、と言いたかったが
彼の実力を知っているツナは何も突っ込めない。どうせどこかの
ファミリーの安い依頼を受けたのだろうと思いながら、ツナは牢屋へ続く
地下の階段を下りた。
さて、どうしようか。
相手は壁に張り付いている。拷問と言えば苦痛が定石だが
自分にはそういう趣味はない。スカルをいたぶって楽しいのは
変態だけだ。ならば――断食で攻めるか、とツナは思ったがすぐに
諦めた。フルフェイスのヘルメットを自分からは取らない男に
食事を出しても無駄だった。
最後に残るのは――
ツナは立ち上がると張りついた彼につかつかと近づいた。
見回りまでは30分。すぐに片がつくだろうと直感した。
だてにリボーンから閨事を教授されているわけじゃない。
ツナは男の両肩を掴むと、歯と歯でジッパーを噛んでそのまま
するするとチャックを下ろした。革で出来たつなぎの下は何も
身につけていない。案の定、とツナは笑った。
「な、何をする・・!」
身包みを剥がされかけて男は興奮気味に行った。
膝が震えているが、肝心な部分は正直なくらい元気だった。
なにって・・、とツナは笑って、その耳付近に
息を吹きかけた。真っ黒なヘルメットが白く濁る。
「――気持ちよくなかったら殺すよ」
しばらくして、悲鳴と嬌声が監獄に響いた。
***
執務室に戻ると、リボーンは地元新聞をゆうゆうと読んでいた。
スカルの侵入など、敵襲には入らないという余裕が全身から
溢れていた。
「吐いたか」
と聞かれてツナは肩を上げた。
「・・すぐにね。もう少し粘ってくれると思ったのに」
つまんないの、と言う彼の唇が艶っぽい。ツナがどういう
拷問で彼を陥落させたのかリボーンはすぐに気づいたが
あえて表情には出さないでおいた。妬いているのを知られるのが
癪だった。
「――あいつ程度、時間をかけるまでもないだろ」
リボーンはツナのネクタイを引いて、その唇を近づけた。
口実は何でもよかった。すみやかに手を、出せるならば。
「・・じゃ、いっぱい・・お仕置きして?」
先刻男と一戦かまえたばかりのボスの唇を、リボーンは
ゆっくりと貪った。格の違いを見せ付けてやろう・・と、
檻の中の野郎に対して胸の奥で思った。