[ PM3:00 ]




どんなに砂糖やミルクを入れても、コーヒーが飲めない。
それでも紅茶に、レモンや砂糖は入れない。
飲む紅茶はアールグレイをホットで。
一度使ったカップは二度と使わない。



学校で一番の不良なのに煙草は吸わないし、お酒も飲まない。
夜はちゃんと十時に寝て、朝は五時には起きる。
実は低血圧で、健康診断にはどこかで引っかかる。
入院するときはお気に入りの枕がないと眠れない。


音楽は聴かないし、映画も見ない。
愛読書は純文学。いつでも文庫本を持ち歩いている。
ゲームをしたことがなく、漫画を読んだこともない。
基本的にテレビは見ないが、世界中の動向を把握している。


バイクには乗るのに、自動車は運転しない。
移動はいつも、専用の運転手が付いたリムジン。
飛行機と新幹線は苦手で、船酔いするので船には乗らない。
専用のセスナとヘリを持っている。


小動物が嫌いなのに、菜食主義。
無農薬のものしか口にしない。
食べ物に関してはデリケートなのに、飲み物は
――紅茶しか飲まない。



「・・意外です」
 俺が素直にそう告げると、彼はそうかなと言った。
白磁のポットになみなみとお湯を注ぐと、ゆっくり
かき混ぜて攪拌させる。
 しばらくポットを置いて葉の流れを沈めると、少しだけ
注ぎ口を傾けて琥珀色の蜜をカップに注ぐ。
 彼が紅茶を嗜む様子は、優雅で甘美ですらあった。


 君も飲むだろ、と聞かれて俺は頷いた。俺は彼みたいに
綺麗な手順で紅茶をつくることなんてできない。だから飲み物
だけはいつも、彼が俺につくってくれる。
 俺は猫舌だから、すぐには飲めなくて。ふうふうと息を吹きかけると
彼が、湯気の溢れるコップの中にひとつだけ氷を落としてくれた。
「こんなやり方は嫌いなんだけど。君ならいいよ」
 彼は冷めてしまった紅茶は飲まない。


 3時にいつもの場所で、ささやかに行うティーパーティは
彼は主人で、俺が客。
 焼きたてのスコーンに、苺ジャムをつけてほうばると
彼が「口元についてる」と指先で拭ってくれた。
 おやつを食べるのは俺だけで、彼はそれをじっと見ている。


「そんなに見ていて・・飽きませんか?」
「全然。君、おもしろいよ」
「雲雀さんの方がおもしろいですよ」
「そんなことを言ったのは、君が初めてだね」

 たぶん、誰も言い出せなかったんじゃないのかな、と
思うけどそれは黙っておいた。


「君は恐くないの?」
「恐くないと言ったら嘘になりますけど・・」
 でも、何?と彼の眼が言う。
「そんなことよりもっと、雲雀さんって不思議で」
 ふふ、と彼は声でだけ笑った。心臓がこそぐったく
なった。

「おかわりはいい?」
 聞かれて俺は、空のコップを出した。もう一つ
スコーンを食べている間に、もっと彼を知ることが
できそうだった。