『 内緒のデート 』
取引が終わる時には、鉛色をした空からしとしとと線のような雨が降っていた。
行きつけのレストランから、リボーンとの待ち合わせ場所まで歩いて五分。
ただ俺は傘を持ち合わせてはいなかった。
「これ濡らすと、リボーンにどやされるんだけどな・・」
以前上物のスーツにオレンジジュースを零した時は半殺しだった。
たぶんこの場合も俺が雨に濡れることより、スーツを見て舌打ちするに違いない。
今日俺が護衛を連れていないのは、この辺りが完全にボンゴレのシマ
(さらに広域で厳戒態勢を敷いている)ということもあったけれど
この後のオフは久しぶりにリボーンとの夕食を控えていたからだった。
走ろうかな、と俺が濡れたアスファルトを見下ろすと、足元に近づく緑の影がある。
それは――
「・・レオン!」
その名を呼ぶと、彼は見る見るうちに大きくなって円を描くように広がった。
変形後の彼は見事に、グリーンのパラソルになっていた。
「ありがとう、レオンってほんとに・・何にでもなれるんだね」
柄を持って傘を差してそう言うと、彼はあっという間に緑から赤く染まった。
レオンは照れるとすぐ、身体に出るのだ。
「・・レオンってほんと、正直だよね」
笑いながらレストランを出ると、何だかうきうきして・・俺は思わずスキップをした。
いつもは気を落ち込ませる雨音が、今日は散歩を彩るBGMみたいだった。
レオンが傍に、いてくれたからかもしれない。
「・・遅い」
待ち合わせ場所でリボーンは、開口一番こう言った。
「ごめん。何だか楽しくて」
取引はうまくいったんだよ、と答えるとリボーンは傘になった彼を見て舌打ちした。
「俺のときは飛んでいかないくせに・・」
「え?何か言った?」
別に、と彼は下を向いた。ちょっとしたことで不機嫌になるのはいつものことだけど
カメレオンの機転にさえ彼はこころが狭い・・
「何処をほっつき歩いてたんだ?」
二十分の遅刻の理由を聞かれて俺は「うーん、いろいろ」と曖昧に答えた。
雨音に彩られた、内緒のデートだった。
レオンは俺が知る以上よりもっと、イタリアの街に詳しかった。
知らない抜け道や、隠れた名店・・とっておきの隠れ家まで
彼は俺にいろんなわくわくする場所を教えてくれた。
緑の傘がナビをする散歩は、新しい興奮と感動に満ちていた。
レオンがもくもくといつものサイズに戻るのを見ながら
俺はまた雨が降ったらいいのに、と思った。
そしたら今度は教えてもらったカフェで、一緒にカフェオレを飲もう、と俺は思った。
レオンは俺と同じで、猫舌。さらにコーヒーが飲めなかった。
「・・ありがとね、レオン。楽しかった」
しゃがんで金色の目にそう言うと、ビー球みたいな瞳に空に浮かぶ虹が映った。
また一緒に行こう、とこっそり言うと宝石みたいな瞳がくるくると回った。
彼も、笑っているみたいだった。