「人は死んだら何処へ行くのかな」
情事の余韻が残るベッドの中で呟くと、窓の外を見ていた彼の気配が笑った。
「えらく感傷的だな、十代目」
彼が俺のことをそう呼ぶときはたいがい・・
馬鹿にしているか茶化しているときだ。
俺はシーツを捲くって起き上がると、カーテンに霞む朝焼けに
片眼をこすった。
「・・別に。俺だってたまにはそう思うときがあるよ」
こんな人の命を、蝋燭を吹き消すかのように散らせる世界にいても。
闇の色に彩られた、空の時間さえ忘れてしまう部屋にいても。
彼はしばらく明るい東の空を眺めてからカーテンを引き戻し
薄暗闇に包まれたベッドに腰を下ろした。
俺がさんざん引っかいた背中は、既に真っ白なシャツに覆われている。
「さぁな。俺は生憎死んだ後の世界なんて考えたことがない」
彼ならそういう気がして、俺は十三歳にしては隙のなさ過ぎる背中に頷いた。
十以上も年の離れた彼に、俺はいつだって口論でも喧嘩でも、勝ったことがない。
彼の分析はいつも抜きん出て先を読み、人のこころの揺れや歪みを知り尽くしていた。
その深くあざとい謀略や巧みな駆け引きで、幾つ他のマフィアを潰してきたのか
俺にはもう、数え上げることさえできなかった。
「俺だって考えたこともないよ。そんなこと、でも――」
「でも、何だ?」
「・・死んだら君に会えないのは嫌だなって」
天国も地獄も信じてはいない。
けれど、死よりも恐いのはきっと・・君との別離なのだろう。
せめて、この世を離れたとき何処に行くのかさえ分かっていれば
――君とは、離れ離れにならなくてすむかもしれない。
そんなことを微かに揺れる電球を見上げながらぼんやりと話すと
リボーンは背を向けたまま「馬鹿か」と言った。
「死んだって、離してやらねーよ」
そう言った彼の耳が僅かに赤いことに気づいていたけれども
俺は見て見ぬ振りをしてやり過ごした。
背中を向けたとき彼は少しだけ素直になる。
それが十年連れ添って知った彼の癖だった。