お願いがあるんだ、とツナは言った。
眼差しは冷えていたのに、俺を見上げる茶色い視線は刺すように熱かった。
「俺を、リボーンの愛人にして欲しいんだけど」
揺るがぬ決意を込めた声だった。
切羽詰った顔は、その言葉が嘘でも冗談でもないことを示唆していた。
何言ってんだ、と俺は返した。
激しく高鳴る鼓動をけして悟られないよう、深く息を吐きながら。
「お前の遊びに付き合ってる時間はねぇよ」
「遊びでも、いいよ。リボーンが抱いてくれるのなら」
俯いた声に滲む恥じらいと、体仕掛けの駆け引き。
こいつは何時からこんな悪戯を仕掛けられるようになったのだろう。
脳裏を駆け巡るのは、腹黒い打算と疑い――分からないのは、聞き分けのよい
ボスの胸の内だった。
「悪いが、俺は・・据え膳は喰わない」
「全部食べていいなんて言ってないよ」
どういう意味だ、と問うように視線を合わせると
目じりに熱いものを滲ませた零れ落ちそうな瞳が、責めるように俺を睨んだ。
「心まで欲しいのなら、ずっと俺だけを見てくれなきゃだめだよ」
愛人、という言葉の意味を、果たしてこの外見年齢が十年変わらない男が
理解しているのだろうか。
文字通り身体だけの関係なら、幾らでも繋いでやれるが。
俺は立ち尽くす茶色の髪の男から、ネクタイを引き抜くとそれを引き
――近づいた淡い朱の唇にそっと口付けた。
「俺を全部やるよ。だからお前も、全部よこしな」
夜が明けたとき後悔するくらい熱く、激しく抱いてやろう。
もう二度と俺の面なんて見たくなくなるほどに。
それでも俺に会いたくなったら、その時は。
「そうしたら、頭の隅にお前の存在を置いてやる」
思い出したら、駆けつけられる場所に。
互いの味はベッドの中でしか分からない。
俺はネクタイを緩め、剥いだ白いジャケットを床に落とした。
ピンストライプのワイシャツと、ベルトを緩めてズボンを下ろすと
彼の身を包むものはほとんどなくなった。
まずは、採用試験と行こうか?
俺が相変わらず筋肉の少ない生白い身体をベッドに横たえると
罠にかかった兎のような眼から一筋・・涙が零れた。