[ 正直な嘘 ]




 馬鹿かお前は、と彼は言った。
大概俺の質問に対する、彼の答えは「いい加減にしろ」か
「答える時間も無駄だ」か、「獄寺にでも聞いてみな」だった。


 確かに馬鹿な質問かもしれないけど、俺にとっては重要なことなんだ、と俺は言った。
確か今日の午前中彼は任務がオフのはず・・話す時間だけはたっぷりと有った。


「だからなんでそんなこと、わざわざ聞くんだ?」

「だって気になるんだもん、リボーンが俺のことどう思っているか・・知りたい」

「それを聞いてどうする?」

 片眉を上げた、真っ黒な瞳に見上げられ、俺は二の句を飲み込んだ。
知りたい、とずっと思ってただけで、知った後のことなんて・・考えたこともなかったのだ。


「もうお前には飽きたっていえば、俺と別れるか?10代目」

 無言の俺に畳み掛けるように告げた彼の言葉に、俺は受けた衝撃とすぐに浮かんだ
ひとつの結論を、喉の奥に押し込んだ。
動揺を悟られることが、本当はとても怖かった。


「・・いいよ。リボーンがそう言うなら」


 少しだけ震えた語尾を、ごまかすように俯くと、何か固くて冷たいものが顎に当たって
俺は導かれるように正面を向いた。

 彼の愛銃の先に並ぶ、漆黒の両眼が僅かばかり月のように細くなっている。
俺はこんな彼の表情を知っていた。
ひどく、楽しくて仕方がない、という顔だ。


「嘘は休み休み言うんだな、10代目」


 結局俺の質問には、まったく答えてもらえないまま
俺と彼は備え付けのソファーに倒れこんだ。
徹夜越しの任務から舞い戻ってそうそう、こんなことをする体力があるのだから
・・彼はそうとうタフだと思うのだけど、そんなことを言って機嫌を損ねると怖いので
俺は黙って彼のキスを受け入れる。


 本当は――飽きてもいいんだよ。
飽きられても、馬鹿にされても、見捨てられても、君のそばにいたい。
饒舌な嘘で誤魔化されてもいい――だから。


 離れる運命ならいっそ、この身を焼き尽くすくらい抱いて、俺をばらばらに壊して。


 忠誠も永遠の愛もいらない。
欲しいのは、今この腕の中にある真っ黒なスーツの下の
甘くて切ないけして掴むことのできないただ一つの熱情。


 俺は死んだって君から離れられそうにない。


 だから、お願い。


 ――そばにいさせて、よ。