[ 成長痛 ]






11回目の誕生日を祝った翌日、リボーンが寝込んだ。
「いってえ・・」
 聞けば関節の節々が痛むという。過労ではと周囲は心配したが
シャマルの診たては成長痛だった。
「思春期にはつきもんだな、ほっとけば治る」
 医者はリボーンを一目見るなり入り口にとんぼ返りした。
ご婦人以外は全く診る気やる気心配する気のない男だった。


「よかったぁ〜」
 役に立たない医者を追っ払うと、ボンゴレ十代目は
よろよろとヒットマンのベッドの端にしゃがみこんだ。
健康管理も仕事の内と豪語する完璧なヒットマンの一大事に
どこかの刺客に毒でも盛られたのではといろいろ気に病んだため
原因がはっきりしてほっとしたようだった。
「いちいち五月蝿いんだよ。痛みくらいで」
 呆れたリボーンが息を吐くと
「だって・・君に何かあったら困るもん!」
 口をへの字に曲げたおおよそ23歳には見えない男が
やれやれと肩を下ろしながら答えた。
「心配したんだよ。ほら・・最近暗殺未遂やスパイ疑惑が多かったから
今度は君が狙われたんじゃないかと、思って」
 物騒なことを並べてツナが言うと
「お前に心配されるほどボケちゃいない」
 ごろり、と寝返りを打ったリボーンは背中をツナに向けた。
十代目だけに見せる背後だった。
「もう・・リボーンの意地っぱり!」
 痛いなら素直に痛いといえばいいのに、とツナは思った。
――そうしたら一日中看病の名目でそばにいられるのに。


 リボーンと四六時中一緒にいられるチャンスなんて早々無いのだ。


 いつも自分を置いていく冷たい背中を見つめながらツナは
「ねぇリボーン、こっち向いてよ・・」
 と言った。砂糖を入れすぎたコーヒーみたいな声だった。


「リボーンの痛いの、治してあげるから・・」


 甘える声にちっ、と舌を鳴らしたリボーンはいそいそと
右側を向いた。下手に生殺しをすると後悔することに
なるのは勿論ツナの方だったが、お願いを聞いてやらないと
すぐそっぽを向くのだ。そこが可愛いことは、一生黙っておく。


「気色悪い声、出すな」


 リボーンが声を出した瞬間、隙をついたツナはその唇にそっと
キスをした。ちゅっ、という甘い音が一瞬、鼓膜を過ぎる。


「唾つけとけば治るって、ドクターが――」
 してやったりとした顔のツナがみなまで言うより早く
リボーンは軋む関節を動かしてその頭を自分に近づけた。
「・・んっ、ちょっと離してリボーン・・!」
 ボスの慌てた声はそのままに、小悪魔みたいな治療の礼を
施してリボーンはにやりと笑った。


「まだまだ、全然足らねーな」


 痛む身体を引きずる男に、さんざん痛い思いをさせられた
ツナがもう金輪際リボーンの心配なんてするものか、と心に誓ったのは
何故か彼の代わりにベッドに寝ていた翌日の朝のことだった。