リボーンと話すとき、彼は眼を細めて笑う。
珍しく表情を和らげる彼を見ていると俺は
心の底がざわざわして落ち着かなくなる。

 この気持ちを何て呼ぶのか、俺は知らない。





[ ローズガーデン ]





 殺風景、と言う彼の一言で学校の中庭は
イングリッシュガーデンに改装された。
 積み上げられた煉瓦と中央を流れる水路。
小さな噴水を取り巻くように咲く花々は
いつでもその季節で一番美しいものが植えられていた。

 天気のいい日彼と俺は、そこで昼食を
とることになっていた。
 木漏れ日を明かりに、読書をして過ごす彼の
横であいかわらず俺は自習ノートを開いていた。
 彼のそばにいても、学校は勉強をする場所だった。

 日も陰る時間帯になると、リボーンがふらりと現れ
手土産を残して去っていった。それは俺には分からない
「依頼」だったり、絶対見せてもらえない「戦利品」
だった。
風紀委員をしている彼はときどき「面倒な
こと」に巻き込まれるのだ。

  それがどんなことか俺には想像がつかない。彼と
リボーンはぼそぼそと内緒話をして、凄く恐い眼をして
から何処かにいってしまう。

  彼が帰ってくるまで、俺は花園の中でぽつんと
その帰りを待つことになる。俺はひとりぼっちのこの時間が
一番嫌いだった。
 彼が毎日愛でる薔薇を、憎らしそうに見つめながら
俺はノートを見たり、辺りをぶらぶら歩いたりして
時間を過ごす。待っていると一秒さえ、倍の時間が
かかるみたいだった。



「ただいま」
 呼ばれて振り向くと、小さな紙袋を抱えた彼が
庭の入り口に立っていた。あいかわらず無表情だけど
なぜか笑っているように見える。

「・・おかえりなさい」
 俺が俯くと、彼は近づいて紙袋の中身を
俺に見せてくれた。中に入っていたのは
カスタードクリームが溢れるくらい入ったコルネ
だった。
   俺はすぐに、崩れていた機嫌を巻き戻した。



「リボーンにもらったんだよ」
 彼はそういいながら、いつもの手順で紅茶を入れてくれる。
蜜のような葉の香が、花園に充満する。
 おやつを一緒にどうか、と尋ねたけど
リボーンは仕事があると言って断ったらしかった。


「気をつかわなくて・・いいのに」


 なみなみと紅茶が注がれたカップを受け取り
ながら、俺は複雑な気持ちになっていた。


「雲雀さんと一緒に、食べたかったんじゃないですか?」


 言葉の端を曇らせながら、俺はぶっきらぼうに答えた。
彼は俺の方を見ると、小さく声を上げて笑った。

「クリームついてるよ、ツナヨシ」
 声に振り仰ぐと、彼の真っ黒な瞳が眼の前に
あって・・紅くて艶めいた何かが、微かに俺の口元を
かすった。


「雲雀さん・・!!」


 舐められたことに気づいた瞬間、いたずらっぽく笑う
彼と眼が合って、俺は顔が噴火しそうなくらい熱くなった。



「君は本当に飽きないね」



 そう言うと彼はもう一度、クリームで甘ったるくなった俺の唇に
なぞる様にキスをした。

 バニラの香が広がる口の中よりも、ほんの僅かに触れた彼のキスの
方がずっと・・甘かった。





(一万ヒット部屋より再録)