伝えて、重ねる
愛を確かめ合う手段なんて星の数ほどある。
唇を重ねる。耳元で囁く。見つめ合う。
性交する。
どれをとっても、君は一流。どれを受けても、俺は三流。
「・・だから、いちいち眼ぇつぶるんじゃねーよ」
「・・だって」
だってもくそもねぇだろ、と彼は言う。呆れて、笑って。
体の一番粘液じみたところをくっつけあって、つかみ合ってもつれて。
ベッドの上で俺を下にして重ねあう、狂気じみた行為が。
気持ちいいんだから仕方が無い。
感じてる表情なんて君には、見せたくない。
君だけには。
ああ、こんな退廃的な何の意味も成さない恥ずかしいだけの行為がどうして
これほどまでに苦しく、切なく俺の内側ばかりを揺さぶるのだろう。
眼を開けて、ねぇリボーン君も気持ちいいの、俺を感じているのと問いかけることが
俺には、どうしてもできない。
眼を閉じて、唇を噛み締めるだけで。
頬に降り注ぐキスの雨を、涙で受け止めるだけで。
愛を伝える手段なんて波の数ほどあるけど俺には、絶頂の瞬間に目を閉じることしか
できない。
指先からかかとまで
人間の醜さなんて、数え上げればきりがない。
人間の汚さなんて、濯げばすべて無くしてしまう。
それでも、君は俺を抱いて「綺麗だ」という。
お世辞にも、綺麗とはいえない体の状況で。
ふいに優しくされると、体の奥が切なくなる。
愛されてる、なんて場違いな言葉が脳裏を過ぎる。
これはただのレッスン。敵を体で陥落させるための。
身を張って生き残るための。
それでもこの授業を彼自らが率先して行ってくれたことが嬉しかった。
全部奪われてしまうなら彼がよかった。
出来ることなら最初と最後もあげてしまいたい。
くしゃくしゃにされて捨てられても。
君の腕の中を感じられることが俺の幸せ。
だから君が俺の顔を見ていてくれる間だけは、一番醜い姿を君に捧げる。
綺麗な人間なんてどこにもいない。
どろどろの俺を、頭からつま先まで全部、愛して欲しい。
息をしている間
群像が揺れる。俺は生きている。
眼を覚ますときはいつも、心臓の鼓動を確認する。
そうでないと、気づかないまま死んでいそうだ、と言うと彼は笑う。
嘲笑より苦笑、予想より、予感。
視界の向こうで何かが揺らめく、あちら側の風景か。こちら側の残景か。
死後なんて気にするほど暇でもない。税金も納めていない。
何かを掴もうと手を伸ばす。すり抜ける。眼が覚める。また朝だ。
意識を失ったことがあるかと尋ねると、いつも正気を失っていると彼は答える。
皮肉と冗談まじりに。
「今死んだら・・後悔する?」
「そんな言葉・・どこかに置いてきた」
彼の答は迷いが無い。それが救いだ。
死んだって、何色にも染まらない黒いスーツの裾だけは離さないだろう。
それが俺の答だ。