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残された拳銃を手に取る。昨日まで当たり前のように執務室で
仮眠を取っていた男の憎まれ口がもうここには無い。
「一生いてくれたって・・よかったのに」
リボーンの馬鹿、と生まれて初めて悪態をついた。
グリップもリボルバーも装填する銃弾も彼仕様の特注品。
十年使い込んだ拳銃を手放すのはどんな気分なのか俺には想像さえもつかない。
ただ十年越しの腐れ縁を解消し、取り残された気持ちなら分かる。
彼は俺がボスに就任した翌日、何も言わずこの部屋を去ってしまった。
肌身離さず携帯していた、愛用の銃を置いて。
ボンゴレをやめる、と聞いたとき俺は止めなかった。彼の意思を尊重したかったからだ。
もともと彼とは俺がボスに就任するまでの「教師」という名目での契約だった。
言葉では言い表しきれないものを十年教わって育ってきた。
これからどうするかも尋ねなかった。少し健康的な生活がしたい、と彼は零した。
いつも日陰で生活していたから肌は真っ白で、十分不健康な生活だった。
活動の大半が深夜から朝方だから仕方が無いのかもしれない。
「ナポリでも行ってきたらいいんじゃないの?」
これから全く休みが取れなくなる俺は皮肉まじりにそう言った。
今までずっと超過労働だったんだもの、少しは休んでリゾートを満喫したら?
イタリアって言ったら、青い空と海、白い雲、色とりどりの果物と魚介類!だもんね。
俺の知るイタリアは血と硝煙と裏路地ばかりだ。
そのイメージは永遠に払拭されないだろう。
翌日リボーンは銃を残して消えた。
朝目覚めたとき俺は、これが悪い夢だったらいいのに、と思った。
発作的に引き金に指をかけ、右のこめかみに銃口を押し当ててみたが
引くことがどうしても出来なかった。銃弾が装填されていなかったのだ。
ドアをノックする音が響いたので俺はそれを一番上の引き出しに閉まった。
打ち合わせに来た右腕から今日のスケジュールを受け取る。
彼がいなくても世界は回っていく。殺し、殺され・・そうやって生きていく。
一年後「ヴェヴィオス火山も悪くない」と記されたスカイブルーの
絵葉書が、俺宛の郵便受けに届いた。
そろそろ有給休暇を貰おうかな、と俺は思った。