隠せない
意識を取り戻した時彼の姿はなかった。
ちぇっ、とあからさまに舌打ちをして、シーツをまくると
向かいの部屋から彼が戻ってきた。
両手にミネラルウォーターを二つ抱えている。
「・・明らかに不服そうな顔だな」
「――別に」
俺は彼からミネラルウォーターを受け取ると、蓋を開けて水分を喉に落とした。
ごくごくと勢い良く流れる水の音だけが、朝焼けの滲む執務室に木霊する。
よくある朝の、出来事だ。
「・・君を捕まえておけるなんて、思っていないよ」
「なんだ、思いたかったのか?」
珍しくリボーンは嬉しそうな声を出した。
俺からペットボトルを剥ぎ取ると、顎を持ち上げて楽しそうに笑った。
「――もう一度、やるか?」
「・・もういい」
「遠慮するなって」
憎らしいくらい整った口元が、俺のそれをなぞり、抵抗する口唇をこじ開けた。
流れ込んできたのは唾液。蹂躙されたのは胸の内。
本当は俺だけの君だったらいいのに――なんて場違いな、思い込み。
「ん・・リボーン・・」
陥落しそうな理性を引き寄せて唇を押しのける。
これ以上犯されたら――どこまで君なしでいられなくなってしまうのか怖くて見当もつかない。
俺だけ溺れているのは癪でも、君を引き込む勇気も無いんだ。
だって愛してる、なんて・・一番信用できない約束でしょう?
「安心しろ・・ツナ」
死神はよく、平気で嘘をつく。
泣きたいくらい甘い戯言を。
愛欲のやり取りをする時は特に念入りに。
「俺だって――お前を捕まえておくためだったら・・何でも、するよ」
君には心さえ、隠せない。