Night
















暗い夜だった。
引いたままの銃口を下ろすと俺は、向かいで裏切り者を始末していた彼に、
「終わったよ」と言った。彼は帽子を目深に被ると、「二分三十秒」と言った。
俺が眉間に標準を定めた引き金に、指をかけるまでの時間だ。
「――遅い?」
「いや・・随分早くなった」
「そう・・」
 俺が迷っている間に彼は眼に映るすべてを射殺していた。

 迎えに来たロールスロイスに乗る。
ふかふかとした白い皮のシートがどこか落ち着かない。
どこもかしこも白いからかもしれない。
「俺が怖いか?」
 隣で足を組んで座る、リボーンが言った。
「・・怖いかも、しれない」
 正直なところ、分からない。迷いがなくなることは強さではないだろうと俺は思う。
その証拠に彼はけして無駄な殺しはしない。がむしゃらに銃口を向けるわけでも、
いたずらに死期を延ばすわけでもない。死に値する人間を着実に黄泉に送っているだけなのだ。
 まるで運命に従順な死神のように。

 リボーンは俺を一瞥して、視線を窓の外に落とした。
いつのまにか振り出した雨が特製の防弾ガラスを濡らしている。
街路灯の点き始めたミラノの街は泣いているようだ。

「――お前は・・俺みたいになるな」

 俺はもう一度リボーンをみた。帽子のつばの影が頬にかかり彼の表情は見えない。
俺には彼のこころを読むことはできない。
――君みたいに・・なんて。
 なれないよ、と俺は思った。口に出すことは無かったが、沈黙が承諾のサインになった。
彼が俺に忠告めいたことを漏らしたのはこれが最初で最後だった。