十年後






十年後、俺たちはどうなっているのだろうという話をした。二十歳の時だ。
俺はボスに就任したばかり。彼はイタリアに戻ったばかりで。
同じ布団の中で寝返りを打つのは初めてだったけれど、彼の素肌に触れるのは
何故かとても神聖な気がした。彼はある方面では伝説の、片や有名な殺し屋だったのだ。
だから彼が俺を好きだと言って、平たく言えば口説かれ、俺が頷いて服を脱がしあって、
日付が変わるくらいまで愛を貪っていたということが、朝が来てもまだ信じられない。
俺はごろりと体の向きを変えた。さっきまで人を殺しそうな眼をしていた彼の横顔が温かい。
一瞬見間違いかと思ったけれど、やっぱりリボーンは優しかった。
盆と正月がいっぺんに来たような気分だ。

「・・さぁな、生憎未来のことなんて興味がない」
 そうだろうね、明日の命だって保証もない世界だもんね。
 のほほんと相槌を打ちながら物騒なもの思いを巡らす。
今日も明日も部下が死ぬ。正常な感覚さえ麻痺してしまった。
 ただ、とリボーンは付け加えた。いじわるそうに眼を細めて。

「・・その頃お前は三十路だな」

 俺は思いっきり彼の頬を引っ張ってやった。いてて、とリボーンが眉をしかめる。
本当のことを言ってやったまでだろうが、と言うので俺はぷいと横を向いた。
十二も離れているというのに大人気ないと言えばそれまでだが、それは俺の一番触れて
欲しくないところでもあった。年の差。彼を好きだと自覚してからひしひしと感じるように
なったもの。俺は年を取り、彼はどんどん成長する。
見守っていきたいけど、置いていきたくないんだ。
俺はもう、ひとりではいられなくなってしまったのだから。

「なんだ・・まだ気にしてたのか」
 背中の向こうの彼が呆れている。そんなのずっと、気にするよ。お互いが死ぬか
永遠に離れてしまうまで。初恋も最後の恋も全部彼に持っていかれてしまったのだから。

「お前が、俺を置いていくわけないだろう」
 彼は続ける。信じられないくらい甘い旋律で。死神が気まぐれに見せるような優しさで。
騙されていたい、と思うのはやはり惚れた弱みだろうか。
 俺は振り向いて、間近にいた彼にキスをした。おねだりは学んだばかりだったけれど、
今強請ったら彼は俺の欲しいもの全部、くれるような気がした。