ゼロセンチ 
















ある日、尋ねてみた。
 出会って十年後、日本とそう変わらないイタリアの空の下で。
 呼び合う名前は変わらないけれど、俺たちの関係は確かに
「雇い主」と「従業員」になっていた。
雇われている方が明らかに、態度が大きかったけれど。
「ねぇ、リボーンって何歳からヒットマンやってるの?」
 素朴な疑問だ。
二日酔いの頭だからろくなことが言えないのも彼はきっと見越していると俺は思う。
「・・さぁな」 
「さぁなって・・それじゃ見も蓋もないじゃない」
 リボーンは振り返るなり大げさにため息をついた。
まじめに答えるつもりの無い時の彼のくせだ。
「ヒットマンがプライベート晒してどうするんだ」
 情報を公開することが危機を増すだけ、というのは言わなくても分かる。
あのね・・リボーン、言いふらすつもりなんてない。
ただ、君を――もっと、知りたいだけで。
「・・ねぇ、リボーン」
「なんだ?」

 二人で過ごした余韻の残るベッドで寝返りをうつ。
肝心なのは答えじゃない。彼が俺を、正確に――誤魔化してくれるかどうか。
「家庭教師は何歳から?」
「お前が初めてだ」
「・・嘘」
 ディーノさんに稽古、つけてたじゃない、と舌を出すと、
リボーンは珍しそうに瞳を細めた。
君のことはちゃんと知っているよ――俺にだって『独占欲』はあるんだ。
 リボーンは「初めてだ」と言った。何かを主張したいらしい。
黒い瞳が楽しそうに微笑んでいる。

「・・教え子に手を出すのはな」
「・・本当?」

   嘘でも嬉しくて体を起こす。ベッドの端に腰掛けている彼に擦り寄る。
手を伸ばして唇に触れる。息が近づく。ゼロセンチの距離。
 これ以上は近づけない、でも。
 本当は君の、全てが欲しい。
 手に入らないものじゃないと、燃え上がらないんだ。

 俺のあさましい胸の内なんて見越して君が笑う。
 嘘でもいい。俺だけの詐欺師でいて。
 君になら永遠に、騙されてあげるから。