それは愛と言う名前の狂気 



たとえそれが罪でも。 僕は君を離さない。






雲雀博士と骸氏


予告編





この街で雲雀博士の名前を出せば誰もが震え上がる。
初めて出会った時から、彼―雲雀恭哉―博士は変わった人だった。
「僕のいう事を聞かないと噛み殺すよ」
助手の面接に行った俺に、彼は開口一番そう告げた。
ノーベル賞候補にもなった脳神経学の権威は、白衣を颯爽と翻すと
「採用の条件はたった一つだからね」
 その日の面接で、俺に発言の権利は与えられなかった。
「僕の言う事を必ず聞く事だよ」




***




「・・どうして君は、言われないと分からないのかな」
「す、すみません。ごめんなさい・・」
 捲っていた専門書を机の上に置くと、彼は俺の肩を掴んだ。
細くしなやかな指は恐ろしく強い力で、俺の腕を締め上げる。
本能的に俺は、底知れない恐怖を感じた。
この美しく賢い人が俺を、いっそ殺してしまうのではないか、と。
「・・っ」
「おしおきが、必要だね」
「雲雀さん・・・」
 見上げた黒い瞳は、真夜中の空気のように冷えていた。





***




「随分手酷くやられたものですね」

 包帯を巻きながら男は至極気の毒そうに紅い眼を細めた。
水晶体を血で染めたような赤と海に注いだような青色の瞳。
その稀有な容貌故、自分はこの屋敷に閉じ込められている
――出会った時彼は己をそう紹介した。
名前は骸。本名であるかどうかは不明だ。
 突き飛ばされた傷、暴れて出来た傷――身体の奥に刻まれた傷。
骸は俺のシャツをめくると、出来たばかりの生々しい痣に
「・・ここに付ける薬があったらいいのですが」と言った。






***




「残念です。こんなに傷つけられてしまうなら」
「骸?」
「早く僕だけのものにしてしまえば良かった」






***





「君が言えないのなら」
 雲雀さんの声が近づく。俺は思わず後ずさった。
「言わせてあげてもいいんだよ?」
「――え」





***





「・・僕を、見たんですね」
「っ・・!」
ふいに掴まれた手首に俺は、発しようとした
すべての言葉を飲み込んだ。
振り返るのが怖い。叫びたくても喉が、硬直して動かない。
「・・どうしました?何を怯えているんですか?」



「見たんでしょう、君は」
「・・・」
「彼が、僕になる瞬間を」







***





   夢を見たんだよ、と彼は言った。
眉の間に皺を寄せながら、何事かを思い出すように。
「その時僕は全く別人だった」
「・・・」
「それに・・君を抱いていた。
――あれは、本当に夢かな」
「――雲雀さん」

それだけは、たとえ貴方でも。
俺の口からは、けして。

「確かめてみようか」





暴かれても貴方を納得させる自信は、一片も有りません。





「雲雀博士と骸氏」2008年1月13日発行予定 (18禁)